少年が恋する生首 02
「研究所?父さんの」
「そうだよ。なんだ、碇やっぱり知らなかったのか」
なぜか人が知らないような情報にやけに詳しい友達のケンスケから今度二年生を対象に行われる会社見学のリストに父さんの研究所の名前があることを教えてもらった。
「ケンスケこそ、まだ配られてもないのにそんなのよく知ってるね」
「まあまあその辺は気にすんなよ。で、どうすんだよ」
ごつごつと容赦ない肘でつつかれる。
結構痛い。
にやにやした顔が何を言いたいのか伝えてくる。
父さんの研究所に初恋の人がいることは話していた、というか半ば暴露話のように強制的に吐かされた。
もちろん男だとかそもそも生首だなんて言わずに曖昧に濁したから若い女性研究者ということになっている。
小さい頃に見た憧れのお姉さん、という感じで納得してくれてその話はもう終わったと思っていたのに覚えていたらしい。
「別にどうもしないけど。ケンスケこそどうするのさ」
少しどもってしまった。
動揺が気付かれただろうかと思ったがまだ若かったんならもしかしたら会えるかもしれないじゃんまあおばさんになってたらそれはそれで悲しいけどななんて軽口をたたかれただけに終わって、研究所と自衛隊の軍艦のどっちを見に行くか迷っていて研究施設がどんなにすばらしいのか、軍艦や戦艦のフォルムが如何に芸術的で素晴らしいものかを語られた。
「僕そういうのあんまりわからないんだよね」
人類の技術の粋を集めた有機コンピュータの研究では世界でも有数らしいけれど人造人間を作っているなんて噂もある、なんて言われてもいまいちピンとこない。
どこどこ軍の軍艦がどうの、と言われたって想像できないのと一緒だ。
「なんだよ、せっかく親父さんが勤めてるのに」
「父さん、あんまり帰ってこないから」
「この機会に知っておけよ。話のきっかけになるかもしれないだろ」
知識なんて半端に吸収してもうまくいかないのは分かっている。
珍しく帰ってきた父さんに新聞に載っていた研究の話題について問いかけてみたけれど返ってきたのは「それがどうした」だったことを思い出した。
そのときの堅い声が聞こえて胸のまんなかがひやりとするような感覚も一緒に出てくるような気がしたから慌てて奥歯を噛んでみる。
期待は持たないと随分前に決めたのだ。
父さんにとっての僕は拒絶する対象なのかなかったことにしてしまいたいのかどちらかなのだと思うことにしている。
「いいよ。どうせ僕にはよくわかんない話なんだし」
「ふうん。でもさ、見に行くくらいいいんじゃないか。百聞は一見に如かずって言うだろ?」
ああやっぱ録画しちゃだめなのかなあというケンスケは一見どころでは済まさない気みたいだけれど、お昼ご飯を買い終わったトウジが帰ってきたと思ったら購買のパンではなく手作りらしいお弁当を持っていたことで話題はそっちに移ってしまった。
僕は作ってもらうというより自分で作る立場だから食べてほしいという女の子の気持ちが少しわかるような錯覚をする。
もしかしたらまだまだ進行中かもしれない初恋も相手は男だしね。
彼は僕の作ったお弁当を食べても食道からぼとぼと落としてしまうのだろうか、それはさすがにグロテスクだなと想像しながら刻みネギを入れた卵焼きをほおばって唾液と一緒に広がる味に今日も美味しくできたと勝手に満足してみた。
03