体で払います!










雲雀というより雲雀とむくつな

















冷たい空気の張り詰めた静謐な空間に生ぬるい風が一瞬だけ吹いたような気がしてどうして窓が開いているのだろうかと考える。
学校の警備、保全は至上命令として部下に達してあるし、以前理不尽にそれが蹂躙されたときから二度と同じようなことが起こらぬよう更に強化したはずだった。
世間で言われれば祝日の今日、自分ともしくはほとんどありえないことではあるが許可された人間以外は立ち入ることができないはずだと、雲雀は視線をずらりと並んだ廊下の窓の分だけ動かす。
曇天でくすんで見える景色にしかし雨の匂いはここにはなかった。

「僕に無断で学校に入るなんていい度胸だね」

振り返って誰もいないはずの曲がり角をにらみつけるとやはり空気が動いた。
気配の消し方は多少様になってきたのか赤ん坊の成果かと腕を試してやりたくなって服の下に仕込んであるトンファーの側面をそっと撫でる。
観念したのか茶色の髪が好き勝手に伸びた頭と小さめの顔に収まった大きな琥珀色の左目だけがそっと覗く。
それと少し遅れて逆に堂々とした態度で出てきたのは茶色い小動物めいた者よりすらりと背が高く、さらりとした漆黒に限りなく近く暗い青を反射する髪を奇妙な形に結い上げた制服というより軍服のような服を身に着けた男で、ぴんと張った静かな空気に気分を良くしていた雲雀は吐き気に近い苛立ちがくすぶるのを感じた。

「おやおや、鳥類の許可がいるとは知りませんでした」

「ちょっと、骸。すみません雲雀さん。あの、様子を見てこいってリボーンの奴が」

不愉快にくふふと笑う男の裾を掴んで茶色い小動物、沢田綱吉はやっとびくびくしながら出てきて眉を下げて一緒に頭もそうした。
袖を掴まれた男の方、六道骸は不思議そうにそれを眺めてから掴まれた裾をじっと見ている。

「赤ん坊が?内容によっては学校に無断侵入した分と他校生まで招き入れた分を含めて咬み殺すよ」

「ええええ!ちょ、ちょっとだけ待ってください。あの、まだ言うわけにもいかなくて」

「いいでしょう沢田綱吉。もう僕らは見つかってしまったのですから」

「で、でもさあ」

言ったら雲雀さん絶対帰っちゃうよと渋る綱吉に骸は呆れたようにふうとやわらかに溜息を漏らした。
仲が良い、と思わせる空気に話が進まない怒りよりも違和感を覚えるような気がするのはこの二人の間に何があったのか知らないしそもそも興味がないから変化に気がつかなかったせいかもしれないが、六道骸はあの小さな男を憎んでいたのではなかったかと話を聞かないためにほとんどの部分で抜け落ちている記憶を探る。
一秒経たないうちにばかばかしくなってまた窓の外を見た。
右端に付着した指紋のような汚れが気になって拭かせなければ、と思う。

「用があるならさっさと言いなよ」

苛々した様子の雲雀にびくついた綱吉が多少どもりながらあ、どうしよう言っていいのかなあと視線をうろうろさせる。

「今日五月五日ですよね」

「こどもの日ですね」

「骸、ちょっとだまっといて」

「はいはい」

「だから何」

二人のおかしなやりとりにはこの際目を瞑ることにした。
くだらない用なら今すぐまとめて沈めてしまえばいい。

「雲雀さん、誕生日ですよね?」

「そうだけど」

歳を取ることにはあまり興味はないが自分が生まれた日だということは学校が連休になるそのひとつの日なので覚えていた。
自分のものであり愛する場所が静かであるのならそこで過ごそうというのを考え付いたのに少なからず関係しているのかもしれない。

「あの、ボンゴレ式誕生日パーティーとかで」

リボーンが、とかファミリーで祝えとかともじもじ断片的な言葉が耳を通り過ぎる。

「山本のもこの前やったんですけど雲雀さん来なかったから」

「僕は群れるのは嫌いだ」

明確に意思だけを表明してさっさと仕込みトンファーを両手に取る。
振り下ろしたところで上部に三叉の槍が付いた長物で受け止められた。
さほど力を入れていなかったとはいえあっさりいなされてぞくりと戦闘の血があるのならそれが指先まで駆け巡るような感覚があって、一旦離れることでしっかりと体勢を整えると確実にしとめるための算段を脳が開始する。
雲雀にとっては呼吸と同じように自然な動作だ。

「まったく。だから嫌なんです。これだからマフィアというのは」

やはり来るのではなかったと填めている黒皮の手袋をきゅっと整えて槍を構えた骸は、振り返って綱吉を窺う。

「どうしますか。前倒しとはいえ一応予定通りですが」

「うえっ。え。どうしよう。いいのかなあ」

はっきりしない様子の綱吉は取り敢えずというふうにグローブに変わる奇妙な手袋を右手に、丸薬の入った薬瓶を左手に持って何故か少し顔を赤くしていた。
雲雀はこれからの戦闘に関しては全く負ける気がしなかったがこの二人のやり取りには少し嫌な予感がした。
何故か全てを巻き込む側であり意思通りにしか物事を進めてこなかった雲雀が面倒なものに巻き込まれてしまうような。
有り得ない可能性は二三回手の中の得物を回すことで振り払ってどこから攻撃すれば効率よく学校に傷を付けることなく仕留めることができるか、ルートをいくつかに絞って長めに呼吸をとる。

「僕はさっさと終わらせて帰りますよ。天井が低いと槍は少々面倒臭いですね。君は、とりあえずバーナーは止めた方がいいですよ」

「わ、わかってるよ。あ、えと雲雀さんこれ。はい骸。いやな顔すんなよ一応ルールだろ。俺たちからこれを取ったら勝ちです。上がって屋上を目指してください」

「なにそれ。馬鹿にしてるの?」

「ひいいいすみません!」

「それは僕も同意ですがね。まあ君には似合いじゃないですか」

「殺す」

見せられたのは小さな缶バッジ。
今日にちなんでか骸には藍色、綱吉にはオレンジのこいのぼりの絵が付いていた。

「全部集めたらリボーンからプレゼントがあるそうです。本当は俺と骸は様子見でグラウンドからあの、獄寺君がダイナマイトだからそこから始めてもらう予定だったんですけど。とにかく、これを六つとあとラスボス?が屋上にいるみたいなのでそこで集めてリボーンに渡してください」

「何で僕が君達の指示に従わなくちゃならないの」

「『いつでも相手してやる券』」

「は」

「リボーンがくれるらしいです。十枚つづり」

怖々、そんなものでいいのかと窺うように言った綱吉に対して雲雀は一瞬固まり、驚くように眼を見開いた。

「赤ん坊が?」

「すみません。えっとでも、リボーンなりに雲雀さんのことを」

「さっさとやるよ。二人まとめてかかってきな」

「え、ええ?はい」

家庭教師として日々教育される身の綱吉には分かっていないかもしれないが雲雀にとってリボーンと闘えるということは無力の草食動物を大量に咬み殺すよりも、何倍も何倍も価値のあることなのだ。
あんなに実力のある者に心当たりは今のところないし、他にどんな力を隠しているのか気になって仕方がなかった。
早速今日その六人と一人を倒して相手をしてもらおう。

「やれやれ。足を引っ張らないでくださいねボンゴレ」

「俺はボンゴレじゃないって!」

意味不明なやり取りをしながらしかし骸と綱吉も戦闘体勢を整える。
一気に酸素の薄くなったような空気が心地よかった。

「学校、傷つけたらただじゃおかないから」

「自分でやっても僕らのせいにしないでくださいね」

「殺した方が勝ちだよね?」

「クフフ。僕に勝つ気ですか。面白い」

「骸!雲雀さん、バッジ取ればいいですから!別に噛み殺すとか」

「うるさい」

「あ、はい」

互いに黙ったところで骸が自分の持っている缶バッジを見せて、びしっと天井に向けて弾く。



そこで休日にしては平時よりずっと騒がしい、並中のこどもの日が始まった。















すべりこみ!雲雀さんお誕生日おめでとうございます!!

おまけ(ディノヒバ)



20090505