体で払います!おまけ
ディノヒバですよ。
「やっぱりあなただったの」
「恭弥!久しぶりだな」
最初の二人は多少てこずったが、とりあえず持っているだろうという人物を(名前を覚えていない者もいたが人気のない校内で雲雀を待っている人間などそれ以外ないので面倒ではあったが苦労はなかった)殴り飛ばしたり沈めたりしながら缶バッジを集めて雲雀は屋上に到着していた。
誕生日祝いと言いながら祝う方にやる気はあまりなかったらしく(銀髪のボクシング男だけは全力で向かってきたが)ある程度過ぎてしまうと雲雀のところにバッジが渡ってきたため闘い甲斐はなかったが以前に比べれば全員の戦闘力が上がっていたためそれなりに楽しめた。
何よりメインディッシュが屋上に待っているので雲雀自身先を急いだこともある。
しかし朝から始まったはずが時刻はそろそろ昼を指すところだ。
雨が降るのか吹く風が湿り気を帯びて冷たくなってきている。
「なんか改めてっつーと恥ずかしいな。誕生日おめでとう。最後は俺が相手だぜ。こいつを奪えたら勝ちな」
差し出されたのは透明度はないが静脈血のように濃い赤色をした小さな丸い石でバッジとは違う。
にこにこと曇り空の中でも明るく笑うディーノの後ろには部下であるロマーリオがひかえており、煙草を咥えたままの口でおめでとうなとゆるく笑った。
「赤ん坊は?」
「ん?ああさっきまでいたんだがな。下の様子を見に行くってさっき降りてった。会わなかったか?」
お前な、おめでとうって言ってるんだからお礼くらいなと苦笑するディーノのにそいつあボスじゃ無理だろうよとロマーリオが笑う。
どうやら入れ違いになってしまったらしい。
すれ違わなかったのはリボーンがそう仕組んだからだろうか、そこまでは分からないが約束を違えることがあったら今度こそ皆殺しだと雲雀は先ほど闘った者たちを思い浮かべていく。
「ふうん。まあいいや。あなたを倒せば終わりだね」
まあまあそう急ぐなよ本当に好きだよなとへらへらしたディーノは手にした石をくるくるといじる。
これでもかというほど磨かれたそれは鉛色の空の中にあってもつるりと光を反射して雲雀の視線もそれを追う。
「これ血赤珊瑚っていうんだってさ」
「へえ」
物騒だけどなんかやっぱお前に似合うよなあと金の髪と同じ色の睫毛、瞳を持ついくらか年上の男は年齢に見合っているようで妙に子どもっぽいいつもの笑みを浮かべて、それから表情を変えるとふと少しだけ寂しそうに眩しそうに雲雀を見た。
まるで大きくなった子どもを前にした親の感慨ではないのか。
雲雀の方は何だかその年齢差を感じさせるような目に苛立ちを覚えて、普段から睨んでいるような目つきを更に鋭くした。
「何がいいたいの」
「いや、なんでもねえよ」
一瞬でそれを跡形もなく消し去ったディーノは珊瑚をここな、と言ってジャケットの胸ポケットにしまい、しゅると得物の鞭を取り出す。
「本気で来なよ」
「そっちも、疲れてるんじゃねーのか」
「馬鹿にしないでよ」
弱いくせに更に実力も出し切らない奴らの攻撃など残っていやしないと革靴の足先でコンクリートを踏みしめて感覚を確かめる。
左の上腕と脇腹に鋭い痛みの走る部分があり、他の部分も少々違和感を残してはいたが問題にするほどのものでもない。
戦闘になれば如何に相手を地に伏してやるかしか考えない。
どこか庇ってしまえばそこから隙が生まれて大きな怪我を負う、ほとんど動物の本能のようにそうして経験を重ねてきたのだ。
「あ、珊瑚って傷つきやすいんだってよ。だから胸は狙うなよ」
「そんなものは要らない。でも要望通り頭を狙ってあげるよ」
「わ。容赦ねえな」
くしゃっとなったディーノの表情はやはり気に食わなかった、そうして意識を向けてしまう自分自身も。
ぼろぼろになってもプレゼントは有効なのだろうかと考えて、あの赤ん坊のことだから何のかんの理由を付けられて逃げられてはたまらないと胴体を狙うことから頭部や脚を標的にする方向へルートを修正する。
「まったく、ボスもキョーヤも相変わらずだな」
そうやって笑ったロマーリオの煙草から灰が落ちたのを合図に二人は同時に地を蹴った。
後できちんと指導をして掃除させたかったけれど、もしかしたら風にさらわれてどこかに行ってしまったかもしれない。
行方は見ていなかった。
「はあ、は。僕の勝ちだよ」
手に入れた無傷の珊瑚をかざして、しかし息をつくだけで苦しいというふうに雲雀はやっとそれだけ言った。
座り込まなかったのは当然の、どこまでも自分を支えている矜持のためで吐き出す息はちょうど目の前の小さな宝石のように血の気配がある。
鞭によって傷つけられた肌には裂傷と縦長い腫れがいくつも走って流れるものやぱりぱりと乾燥していくものもどこからの出血なのか最早分からない状態だ。
「やあ、ほんと。結構本気だったんだけどな」
まさか取られちまうとはとちょっと口を開けたディーノは雲雀ほどではないが少しだけ息を乱していて、闘いも雲雀の希望に適うほどには本気だった。
本来なら雲雀でも難しいことだったがほんの僅かな油断と失敗で姿勢を崩したディーノのポケットからするりと石が飛び出してしまったのを雲雀が見逃さなかったのだ。
コンクリートにぶつかって割れる直前、それを片手で掬い取ったのには雲雀自身も驚いていた。
普段なら相手を倒すことにしか興味はないしそれ以外のことは、特に戦闘中は視界に入りもしないのにあの小さな赤を目で追ってしまったのはそれを見たディーノの金色を思い出したからだろうか。
掌の上の丸い塊は思ったとおり上質な布地より吸い付くように滑らかで肌になじむような気がした。
「幼な心」
「?」
「宝石言葉なんてあるんだな」
「馬鹿にしてるの」
「いやいや。お前はそれでいーんだ」
ふわ、と動き回ったせいでぐちゃぐちゃになった頭をとかされる。
しばらくそのまま撫でられてからはっと気付いて慌てて振り払う。
背も体格も違う、熱い短い息のまま近づかれて汗と血の混じったような匂いが濃くなった気がした。
刺青に侵食されたような首元が赤い、と思った。
「俺もうかうかしてらんねーな!」
「別に、今から仕切りなおしてもいいけど」
「まあ、とりあえず今度にしようぜ。腹も減ったろう?」
用意してあるってリボーンが言ってたぜと今までの戦闘がまるで準備運動であったかのようにさっぱりと言われてやはり本当に負かしているわけではないのだとぎりりと奥歯を擦る。
そこで切れていたらしい口の中から鉄の味が広がっていく。
吐き出してしまいたかったが学校の一部に唾を吐くなんて真似をしたくなかった。
「おっ、降ってきたな」
胸の前に手をかざして確かめていたディーノは口まで開いてる。
あれでは雨粒が入ってしまうだろう。
「行くか」
今度は雲雀の肩にかかった学ランを引っ張り上げて雨除けに頭に被せる。
透明な雫を受け止めた金糸をいくつか見つけて、睫毛も同じようになっているなとただそれだけを思う。
「僕は群れるのはきらいだ」
「んーなんかその辺は考えてあるとか言ってたけどな。今日のこれがまとめてじゃなかったのもそういうことだろ」
「時間の無駄だよ」
「そう言うなって」
笑う男が調子に乗って肩を抱いたから、今度は気にすることもなく肋骨を思いっきり殴りつけた。
被った学ランの中に熱がこもっているのは、きっと多すぎる湿気と戦闘で熱を持った身体のせいだろう。
手の中の石だけがすこし冷たい。
ちゃんとしたディノヒバは初めてです。
赤い薔薇にしようかどうしようか迷った。ディーノさんはこのくらい恥ずかしいこともしてくれるという希望という名の偏見。
血赤珊瑚は稀少品らしいです。あ、レッド・コーラルは五月五日の誕生石です。おさなごころって。
この後は…なんでしょうねとりあえずリボーン先生は「俺とのなんて言ってねーからな」とか言って綱吉とかに行けって言うと思います。ひどいね。
20090505