なみもりこうこうのじけんぼ・いち










昼休みの間に弁当を食べる時間とか、特に男子の場合ならそんなに重要ではないと思う。
食べるのも早々にグラウンドでサッカーをしにいったり、山本なんかはたまにバットの素振りに行ったりしている。
けれども俺の周りはなんだかんだで騒がしいから飯食ったりぎゃあぎゃあやってる間に昼休みは終わってしまったりしてたまに箸を付けられないことすらある。
中学に比べてその回数がぐんと減ったというのは、まあ、いいことなんだろう。

「ああ、犬。肉ばっかりじゃなくて野菜も食べなさいと言っているでしょう。何のために細かく切ってるんですか。贅沢になったもんです、お仕置きしますよ」

喋っている途中にきゃいんきゃいんと悲痛な鳴き声みたいなものが聞こえる。
犬さんは上手に弁当を守りながら骸の蹴りを受けとめていた。
もう毎度のことになっているので凪だけが視線をうろうろとさまよわせたがそれだけだった。
ちなみに場所は生徒会室。
かの風紀委員長がいたなら怒りにうち震えた後全員咬み殺されても仕方がないくらいには群れている。

「今日は六道がつくったのかー」

「ええ、というか僕は手伝いですけれど。凪が作りたいというので早起きして。分担しました」

「あー、それでいつもより豪華なのなー。凪はすげえな!」

いつの間に仲良くなったのか山本はいつものように人懐っこい笑顔で、骸はまだ犬さんの頭を踏みながらちょっと自慢気に言った。
手放しの褒め言葉に凪は顔を赤くしてうつむいている。
六道家は人数が多い。
最近は一週間に一度くらいは遊びに行くが、全員に個室があってなおかつ部屋が余っているようなマンションだから特に不自由はなさそうなんだけど。
ちなみに余っていた部屋に先日入ったグイド君にこの間会っていろいろあったんだけどまあその話はまた今度。
食事とか洗濯は大変だろう。
そうきいたら「まあ分担してるので大丈夫ですよ」と当たり前のように言われて骸と千種が主に家事をしているらしいということがわかった。
最近は凪も家事を覚え始めたようで、でかでかとハートの描いてある弁当を「つくったの、ボス食べて」と言われ差し出されたときにはどんな嫌がらせかと思ったが(実際それはこの学校では彼女の兄ということになっている骸の嫌がらせだったわけだが)その腕は順調に上がっているみたい。
集まっている面子は骸、犬さん、千種さん、凪、獄寺君、山本、それから俺、沢田綱吉だ。
なぜ生徒会室かというと骸が話があるとみんなを呼びだしたからだった。
クラスも学年すら違っていたりするわけだからこんなふうに仲良く集まっているのは稀だし、そもそもこの中で生徒会役員は会長の骸だけだから毎度毎度こんなことをしては他の役員に迷惑をかけることになってしまう。

「で、なんだよ用ってのは。ボンゴレ関係なら笹川の兄貴はいいのか?」

特に険悪な雰囲気でもなかったけれど、獄寺君が骸に喧嘩腰で聞いた。
覚えているかぎりで彼が骸に喧嘩腰でなかったことは皆無だ。
最近は結構、他の人とか女子にも態度が柔らかくなったんだけどな。

「あなたは馬鹿ですか。ボンゴレなら牛もトリも呼ばなければなりませんし、そもそも召集かけるのは綱吉かアルコバレーノでしょう。それにそうなら千種と犬は近付けさせません」

顔だけはにこやかに、ようやく犬さんを蹴るのを止めて骸が答えた。
骸は暴力的ではあるが過保護なので自分のテリトリーにいる人間は極力ボンゴレに近付けたくないらしい。

「じゃあなんだよ」

獄寺くんの言葉に骸はちょっと意味ありげに微笑むと、「頼みたいことがあるんです。生徒会から」と言ってウィンクした。
恐らくかわいいとか色っぽいと思ったのは俺だけで、獄寺君は心の底から気分が悪そうにしていた。
美形に美形は効かないのか。

「頼みたいこと?」

鸚鵡返しにすると返事の代わりに鶏の唐揚げを差し出された。食えということらしい。
特に気にせずぱくつくと、甘酸っぱいたれがかかっていて、冷えているにも関わらずやわらかくジューシーだった。

「うまっ」

「クフフ。最近覚えたんです」

「骸様、それだけ作ってたの、ボスのため?」

「そうです。男を捕まえておくには胃袋を押さえることが肝心なんです」

この前お料理番組で言っていました!と偉そうに豪語している。
おまえも男だろとかそれを俺の前で言うなよとかいろいろずれているとは思ったが、骸が料理上手でも困ることはないので放っておく。

「おいてめえ話がずれてんぞ。あと十代目に気やすくあーんなんてするんじゃねえ。十代目が穢れる!」

俺の代わりにつっこんだ獄寺君が妙なことを言っているがこれも放っておく。
前は問答無用でダイナマイトだったから彼も慣れてきたんだろう。

「おやおや。すみません。綱吉の口がいつも開いているせいで塞いだり突っ込んだりしたくなるんですよ。あと穢れるのどうのって綱吉はすでに僕が」

「待て!いつも開いてて悪かったな。てか卑猥な言い方は止めろ!」

今度からできるだけ口を閉じるように気をつけようと心に誓った。
そして話題を戻さなければ昼休みが終わってしまう。
俺が促すと骸は水筒からお茶を注いで一杯飲むと、実はですね、と話し始めた。

「もうすぐ文化祭でしょう?勿論盛大かつ華々しく派手派手しくやるために僕は生徒会を限界まで酷使して準備に余念がないわけですが」

ひどい。生徒会の人たちはさぞかし地獄を見ていることだろう。

「いいんですよ。あの子たちは僕の為に働くのが嬉しいんですから。話を戻すと、その準備の最中に困ったことが起こっているんです」

「困ったこと?」

さすが天下の六道会長だ。
まあこの学校では彼の本性を知っているか、風紀委員会でない限りはだいたい骸に懐柔されてしまうだろう。
俺が問い返すと骸は神妙に頷きながらあと少し残っていた俺の弁当の白米に金平ごぼうを乗せた。
丁度おかずがなくなっていたのでありがたく食べたが、骸のこういう気持ち悪い所に慣れ始めた自分にちょっと疑問を感じないでもない。
ごちそうさまでした。

「いろんなものがなくなるんです。それも頻繁に。生徒会だけならなんとかなったのですが、各クラスからもちゃんと管理していたはずの支給品が消えているらしくて。何人か級長が土下座しにきました」

土下座って。土下座って。喜んで踏んだりしていないだろうかだって骸だし。

「ん?綱吉、今失礼なこと考えましたね?まあいいですけど。で、ちょっと気になって草壁に聞くと風紀委員会も生徒会ほどではないにしても物が無くなっているらしいんです。委員長に言うと恐ろしいことになるので黙っているらしいのですが。まあ黙っていて支障の無いもので、些細なことだから僕が言うまで単純になくしたものとしていたとか言っていました」

「六道って草壁さんとも仲良かったのかー」

「ええ。委員長がアレなのでメル友です」

「まあそうだよなー。ヒバリ連絡つかねーもんなー」

メル友かよ。
心の中で誰もがそう思ったが、骸と山本がなんでもないことのようにしているのでつっこむタイミングを逃してしまった。
それにしても山本は雲雀さんに何か用でもあったのだろうか。
そういえば前に「ヒバリってなんかおもしれーのなー」とか怖いもの知らずなことを言っていたような気がする。

「おい野球バカ!話がすすまねーから黙ってろ!六道、なくなってるのはどんなものなんだ?」

どうしてか話に興味を持ち始めたのは獄寺君だった。
それとも早めに切り上げてここから出たいだけなのか。
あと獄寺君が骸のことを苗字で呼ぶのってなんか新鮮だなとかこの場にまったく関係ないことを考える俺である。
斜め前に座り、さっきから一言もしゃべらない千種さんと眼が合った。
弁当は片付けてモバイルパソコンをかしゃかしゃ。
もしかしてこの妙な会議の議事録でも取っていたりするのだろうか。
馬鹿すぎるので止めて欲しい、きっとゲームのプログラミングとかそういうのだと思うことにして視線を骸に戻した。

「最初はハサミ一本とか、ホチキスの針とか、普段は気が付かないようなものがなくなっていたのですが、段々印刷しておいたタイムテーブルとか、今は椅子が一脚ありません。クラスでは支給した暗幕とか、展示用の紙とか。ああ、演劇部でかつらがなくなったっていうのも聞きましたね。風紀委員は市長の名刺とか、地図とか制裁を加えた生徒の名簿そんなものらしいんですが」

骸は生徒会室の角を見ながら言う。
確かに机に対して椅子一脚分のスペースが空いていた。
というより風紀委員会の持ち物が微妙に恐ろしい気がする。
気にしたらもっと恐ろしいことを聞いてしまいそうなので頭から追い出す。

「それって、盗まれてるってこと?」

「おそらく。まあ単になくしたものがあったとしてもほとんどは文化祭や生徒会に関係しているものです。本番まで後二週間もありません。今はそんなに実害のないものばかりですが、エスカレートすると進行が妨害されそうで。あと僕が馬鹿にされているみたいでとても不愉快です」

骸は笑っているが、かりかりと爪で机を掻いている。
こういう些細な障害があるとは思ってもいなかったのだろう。
昔から邪魔者は一掃してきている奴だからこそこういう事態には慣れていないのかもしれない。

「それで、なんで俺たちを?」

訝しげに獄寺くんがきいた。
確かに、調べて犯人を捕まえるくらいなら骸一人でも簡単そうだ。
その問いに骸は少し眉根を寄せて躊躇った。
嫌そうだというよりただ単に言いにくそうな感じでそこだけ肩にかかっている襟足の辺りを撫でる。

「おそらく、この件に関して僕が動くことは得策ではない。ですので君たちに調査を頼みたいと思いまして」

骸らしからぬはっきりしない物言いだった。
それにいつだって自信満々で偉そうにしていて、頼むだなんて下手に出るような言い方聞いたこともないので晴天の霹靂(ちなみに漢字は書けない)そのものだから、後ろの犬さんや凪もぽかんとしている。
千種さんは下がってもいない眼鏡を二回上げた。
この三人も特に話されてから来たわけではないらしい。

「六道なら能力とかで犯人わかるんじゃねーの」

暢気そうに山本が言う。
ものすごくアバウトな言い方だが、俺たちが言いたいのも似たようなことだった。
使えるものは何だって使うし、その方法も心得ているのが六道骸だと一度戦った俺たちにも彼の部下にも良くわかるのだから。

「別にいいんですがね。マインドコントロールかけて聞き込みするとか幻術で姿変えたり消したりしてここに来るやつを見張るとか」

言ってから息をつく。
もしかしたら連日の忙しさでちょっと疲れているのかもしれない。

「しかしマインドコントロールは掛けたほうに負担を強いるし解くのも面倒、それに四六時中ここ見張ってられるほど僕も暇じゃないです。あとまあこれが一番の理由ですが、犯人は一人ではない」

あーほんと、千種じゃないけどめんどいですねえ全部なくなればいいのにとか物騒なことを呟いてから、鞄から板チョコを出して食べだす六道会長。
ちなみに骸のチョコ年間消費量は半端ない。
そんなに食ってにきびできないのかよと訊いたら美少年になんてことを訊くんですかとか意味不明な言葉を返されたけど。

「一人じゃないって」

「複数犯、組織的犯行。両方考えられますが、少なくとも二人以上でしょうね」

ぱきん、と小気味良い音が生徒会室に響く。
一般的に見る包装ではないのでまたコンビニの新作だろう。
新商品とか限定モノに弱いらしく、たまに悪態をつきながら後悔していたりするが順調に食べ進めているので当たりなんだろう。
多分その他にミルク、ビター、ホワイト、クランチのどれかは絶対に持っている。
もうすぐそこのハロウィンは困らないだろうな。
骸が誰かに自分のチョコを分け与えるのかどうかは別として。

「まだ犯人も分かってねーのになんでそんなことが言えんだよ」

「風紀委員会に見張りもなしに忍び込む場合、生存率は0.5%以下。仮に一番下っ端に見つかったとしても身分を調べられて雲雀恭弥に報告される。ちなみに進入がたやすいのは演劇部部室、一階で窓の鍵が壊れてるから鍵を忘れた部員がそこから進入するのを度々目撃されている。生徒会室は骸様、副会長と顧問が鍵を管理していて顧問の鍵の管理が甘いからそこから合鍵を作られた可能性があり。ここは三階だから外から進入したというのは考えにくい。上ってくることはできても見られる確率が高いから」

獄寺君の疑問にはパソコンを操作しながら千種さんが答えてくれた。
多分他は大丈夫だけれど風紀委員会に一人で乗り込むなんてどう考えても無理だと教えてくれたらしい。
その画面を覗き込んだ犬さんが「柿ぴーそんなもんなんでもってんら?」と訊いた。
確かに骸から何も聞かされていないのならそんなデータを持っている道理が無い。
今の間に作ったとしたら千種さんは高校に通っているよりも大学の研究室とかにいたほうが良いような気がする。

「サバゲーのシュミレーションしてた」

「さば?さかな?」

「サバイバルゲームの略ですよ。最近妙に学校のパソコンに侵入してる奴がいると思ったら千種だったんですか」

骸も千種さんのパソコン画面を見ながら驚いたように言った。
サバイバルゲームってあれだよな、実際にペイント弾とか持って対戦するやつ。
一瞬楽しそうなリボーンの顔が思い浮かんで背筋がぞっとしたので想像するのを止めた。

「てか学校のパソコンに侵入って」

だめじゃん。
口ぶりから察するに骸もやっているらしい。
ものすごくよからぬことのにおいがした。

「ただの趣味。並高でシュミレーションするといつも結果が違うから面白い」

「なんだと!十代目がいつも一位じゃねえのか!」

獄寺君が食って掛かった。
常識的に考えて骸とか雲雀さんとかいるのに、てか死ぬ気モードにならないとただのひ弱な高校生なんだから一位とか無理だって気づいて獄寺君!

「沢田は死ぬ気モードより通常モードの方が長く生き残ってる。色んな人間がかばうから。でもかばった人間のせいでよく死ぬ。ダイナマイトとか」

かばってもらうって俺は女の子か。
まあ獄寺君の暴走とかの余波を食らうのはいつものことだけど。

「申し訳ありません十代目!」

「獄寺君ゲームだから」

なぜか謝り始めた獄寺君をなだめていると「とにかく」と骸が話を戻すように少しはっきりした声で言った。
気が付けば本筋からだいぶ逸れている。
なだめ役は山本が代わってくれた。
大抵の場合は逆効果なんだけど。

「複数犯の場合、一人捕まえても無駄な場合がありますし、裏に指示している人間がいることが考えられます。僕はこの可能性が濃厚だと考えていますが、そうだとすれば僕が行動するのは目立つし、下手をすると逃げられてしまうでしょうね。今までの経緯から見ても犯人は相当逃げ足の速い人間のようですから。まあ一番簡単に内部犯ってのもありますけどね」

今日生徒会の人間を追い出したのはそれでなんですがと食べ終わったチョコの包装紙を手慰みにしながら骸は言った。

「えっと、風紀委員とか生徒会の誰かがやったってこと?」

「それか弱みを握る誰かにそれらの人間が使われている。その可能性を考えると実行犯を捕まえても無意味なわけです」

そうそう、綱吉にしては理解が追いついていますねと言われ、頭を撫でられてから一口サイズのチョコをくれた。
勉強を教えてもらっているときに褒める骸のやりかただ。
さっきから餌付けばかりされている気がするが、ちょっと好きな種類のチョコだったので黙って貰う。
こういうことだからどんどんエスカレートしていくのだ。

「そこで君たちです」

骸は俺と獄寺君と山本を順番に見てまた俺に視線を戻した。

「は」

「君たち文化祭の準備とか、前日だけでしょう?文化祭前は部活動も禁止ですし。それに山本なんかは友達が多いから聞き込みがしやすい、獄寺はまあちょっと強面で態度が悪いので聞き込みには向かないでしょうが頭脳労働は得意でしょう?それに綱吉は勘が鋭いし妙に人の懐に入り込みますからね。調査にはもってこいです。ああ、もちろんこの三人も付けます。僕のかわいいクロームを傷つけたら綱吉以外は殺しますけど」

つまり俺たちにその文化祭妨害行動の調査をしろってこと?
しかし骸の態度といったら人にものを頼む態度じゃないよな。
後ろの三人なんてもう決定事項っぽいもん。
別に不満そうに見えないのはまあ当たり前なんだろう。

「ふざけんな!頼みごとの態度じゃねーだろ。それに十代目のお手を煩わせんじゃねーよ!」

案の定というか、獄寺君が食って掛かると骸はそれもそうですねと思案するように首を傾けた。

「僕は命令するのには慣れてるんですけどね。頼み事は苦手というかそもそも人に頭を下げるなんて行為は自己同一性に反します。ということで報酬制にするっていうのはどうでしょう。報酬が気に入らないならこの件は断っていただいてかまいません」

さりげなく人としてとんでもないことを言ってから骸が出したのは意外にもまともな案だった。
文化祭前というのはなんとなく宿題とかも少なくなったりしてちょっと空き時間がある。
それを使って何か貰えるんならそんなに悪い話じゃないのかもしれない。
犯人が骸に逆らってるっていう時点でちょっと怖いような気がするけど、それ以上に皆で調べたりいろいろやるのはちょっと楽しいかもしれないとか俺は思い始めていた。
どうせ生徒会で忙しい骸とはこれからどんどん会えなくなってしまうのだし。

「報酬ってなんだよ」

「お金で解決できるものなら用意できないものはありませんけれどまあ文化祭ですし、食券チケット全種提供とかでどうでしょう。あああとマスターキー扱いのスタッフパスも付けます」

「乗った!」

山本が立ち上がって満面の笑みで答えた。
いまいち価値の分からない俺と獄寺君はそろって眉根を寄せる。

「並高の文化祭って、毎年わりと人が集まるんですよ。そのせいでお昼頃屋台は混雑してなかなか買えなかったり売り切れたりするので、生徒には前売りの食券を提供するのですが1年生が勝ち取るのは不可能に近い代物です。ちなみに僕が用意するのは食券の中でも優待券なので待たずに買えます。あと、スタッフパスで関係者以外立ち入り禁止の場所にも出入り自由なので座る場所にも困りません。話も通しておきます。チケットはまあおまけみたいなもんなんですけどステージ用ですね。見るなり売るなり自由にしてください」

つまり食べたいものは何でも食べられる上に座ってゆっくりできる特権まで付くっていうことか。
それを簡単に用意できるとか言えるのは骸と雲雀さんくらいじゃないだろうか。
まあ二人の場合はそんなものは全く必要ないのだと思うけど。
山本は友達か何かから聞いて食券とかの話を知っていたのだろう。

「けっ、そんなもんか」

獄寺君は興味もなさそうに横向きに座って足を組んだ。
この人そもそも文化祭に参加する気があるのかどうかも微妙だもんなあ。

「おや。不満ですか。綱吉は?」

骸は特に残念そうでもなく俺を見る。
それから協力してくれないですかと言いながら頬の辺りに手を添えてきた。
何か顔が近いんじゃないですか。

「うーん。俺はどっちかというと色々調べたりするの楽しそうかなって。マフィア関係なく皆となんかやるって最近なかったし。文化祭も楽に回れるならそれに越したことはないし、ってちょ、むくろ」

話している間も指がうろうろしていると思ったら目元とか生え際とかなんだかくすぐったいような気持ち悪いような場所を撫でられ始めた。
払おうと首を振ってもさらについてくる。

「協力するから、何?もう」

「これからあんまり触れなくなるので」

本当に何をするというわけではなくぺたぺたと顔面を触られる。
それをする骸の表情は何だか怒っているというか頼みごとをしたくせに不満そうだ。

「骸さま、やっぱり私と犬と千種だけで」

「いいんです。綱吉は受けると言っていますし、君たちだけでは不安です」

「でも」

凪が遠慮がちに声を掛けるがそれにも少し突き放すように返して最後には顎先をすべるようにしてから掌は離れていった。
一体何がしたかったのか何を不満がっているのか全く分からない。

「骸?」

「で、獄寺はどうします?綱吉がやるのに協力しないんですか」

俺の視線から逃げるように獄寺君を見た骸はさっきまでの不満げな様子をかき消して勝ち誇ったように笑った。
その表情にらしくもなくぼーっとしていたらしい獄寺君は、はっと俺を見た。

「十代目、いいんすか。もしかしたら危険な事かも」

「失礼ですね。僕が危険なことに綱吉を巻き込むと?危ないと思ったら殴ってでも止めさせますよ」

うんまあどちらかといえば危険なのは犯人とかじゃなくてここでふんぞり返ってるこの男だよね。

「殴るのはできれば止めて欲しいけど、骸もこう言ってるし大丈夫じゃない?なんだかんだで面白そうだし」

笑ってそう言うと獄寺君は「さすが器が大きくていらっしゃる!」とかわけの分からない感動のしかたをして、いつも通りお供しますと元気に宣言した。
そこで思い出したように5時限目の予鈴が鳴る。
生徒会室は一年の教室とは離れているので急がなくては授業に間に合わないだろう。

「ではお願いしますね。詳しいことはメールしますのでもう行って大丈夫ですよ。期待しています」

僕はまだちょっとやることがありますのでと骸はぞんざいに手で払うような仕草をして書類のようなものを取り出す。
獄寺君と山本は言われなくてもとさっさと出て行き、千種さんと凪は一礼して、犬さんだけはなぜか敬礼のようなものをして退室していった。
まだ空の弁当箱を広げたままにしていた俺がもたもたと片付けていると隣からふっと笑うような音。
二人しか居ないのだから誰なのか考えなくても分かる。

「なんだよ」

「いや、相変わらずとろいなあと思いまして。話している間にいくらでも片付けられたでしょうに」

むっとして顔を上げると珍しく行儀悪く肘をつき、手に顎を乗せた骸が俺を見ていた。
ちなみに書類は机に投げだされている。
仕事あるんじゃなかったのかよ。

「忙しいんだろ。ほっとけよ」

「はいはい」

言葉とは裏腹にまだ視線を感じるが、何とか片付けて席を立つ。
もう一度骸を見るとすでに俺を見てはいなかったのでそれにもむかついて背を向けた。

「文化祭」

「え」

「なるだけ仕事も終わらせて、休憩も取れるようにしますから」

顔は書類に向けられているし、長い前髪が前にかかっているのでその表情がどんなものかは伺うことはできないけれど声はやわらかだった。
何を言われるのかさすがに勘付いて少しだけ頬に熱が上る。

「一緒に回りましょうね」

「うん」

いくら同じ学校でよくクラスに来るといっても、学年は違うし骸はしょっちゅう学校にいるわけじゃないから獄寺君や山本、あとはクラスの友達(驚くことに少しではあるけれど俺にも友達ができるようになってきた)とかと過ごすことの方がずっと多い。
一緒に校内をうろつけるなんてめったにないから素直にうれしかった。
きっと妙な悪戯の件が解決したらという条件付きなんだろうけど、ご褒美で言ったら食券なんかよりもずっと良いもののように思える。
骸には絶対に教えないけどさ。

「十代目―。授業遅れますよ」

待っていてくれたのか獄寺君が廊下から顔を出す、とすぐに怒ったような声を出して後ろを振り返る。

「なんだよ山本引っ張んじゃねーよ」

「邪魔しちゃわりぃだろー。六道寂しそうにしてたんじゃね」

「うるせーな関係あるか」

「さっきは見逃してあげてたのなー」

「ばっ、違えよ考え事してたんだよ!」

何を喋っているのかよくわからないが喧嘩なら止めなくちゃいけないだろう。
俺は骸に軽くじゃあもう行くよと挨拶した。

「獄寺にまで気を遣われるなんて僕も落ちたものです」

「うん?何?」

「何でもありません。ではまた」

「うん。じゃあね」

生徒会室から出たところで廊下に本鈴が響く。
5時間目はどうやら遅刻を怒られてしまう羽目になりそうだけれど、俺はちょっとだけわくわくした気持ちで歩き出した。



20081103





に、に続きます。