休日に出会った日常という名前の




親友に、会った。





親友に会った、それはいい。
けれども何で休日に、こんなに込み合った街中で偶然会ってしまうのだろうか。
正直言って若菜結人は気持ち悪かった。

「え、なに英士。俺のストーカー?」
「見てわからないの、買い物だよ。俺がストーカーしてて結人が気づけるわけないでしょ」

なんか馬鹿にされてるのか危ないのか的外れなのかどれも微妙な返答だった。
確かにそう返した男、郭英士は書店の名前が入った紙袋を提げていた。

「なにその顔。結人こそ、俺のストーカー?」
そう言って郭はやっと少し笑った。
何でそんなに人を小ばかにした笑み、ってやつが似合うのだろうか。
更にいやな気分にさせられた若菜は、お返しとばかりに人の悪い笑みを浮かべて言った。

「俺はね、デートだ、デ、エ、ト!寂しい英士君と一緒にしないでくれるかなー」

にやあ、と笑うと英士は怪訝そうな顔をした。

「それにしては相手の姿も見えないし、この辺は待ち合わせに適してるとは思えないけど」

確かに、二人が出会った場所は駅前でもないし、人通りも多く、待ち合わせには少々手間のかかる場所だった。
当然といえば当然の指摘をされて、いやあのそれはと視線を泳がせる若菜。
あまりにもあからさまな反応に少し笑って郭が言った。

「へえ、すっぽかされた」

現在時刻は午後三時だから、もしかしたら待ち合わせをしたのは一時とかそのくらいだったかもしれない。
一時間も二時間も待っていたとしたら健気だなあと郭は暢気にそう思った。

「ちっげえよ、ちょっと遅れてるから時間つぶしてたんだって」
「ちょっと、ねえ」

含みのある言い方にむきになってちょっとだよ、と声を大きくする。
そう。
以外にもあっさりと納得した郭はなんだかまだちょっと笑っているらしい。
なんだよ、訊くといやいやとやはり笑いを含む声で返される。

「結人が女のところにいっちゃうなんて、さみしいなー」

それにしては心がこもっていない。
英士のくせに語尾伸ばしてんじゃねえよ。

「そういうことはせめて口を閉じてから言ってほしいなー」
だから伸ばしてんじゃねえって。わざとか。
若菜があからさまに顔を顰めると、郭はさらに笑みを深くした。

「あれ、彼女じゃない?」
「は、うぇ!?」

後ろを指差されて慌てて振り返った若菜は、その瞬間郭が自分の彼女など知るはずの無いことに気がついた。
そもそも今日は初めてのデートで、まだ告白だってしていないというのに。
絶えられない、というように後ろでくくくっと笑う声。
今日なんか俺英士に笑われてばっかじゃね?
てかなんでこいつこんなに楽しそうなんだ。
すげえむかつくんですけど。

「だから、口閉じて言いなって」

こんなに簡単に引っかかると思っていなかった郭は、笑いすぎてやっとのことで眦にたまった涙をぬぐった。

「ごめんごめん。結人がなんか一馬みたいになっててつい加虐心が」
「失礼な!お子様かじゅまと一緒にすんじゃねえよ。ってかおまえ一馬みたいのなら全員いじめんのか!」

そりゃあいい趣味だ。
若菜が言ってやると、一馬みたいなのがいっぱいいたらきっと鬱陶しいよと真面目に言う郭。

「今だって結構面倒くさいのに」
「うわーえーしくんひどーい。かじゅまがかわいそうだよっ」

はいはいそうだねと言ってから、それじゃあと立ち去ろうとする郭を、もう行くのかと若菜が引き止めた。

「そろそろ待ち合わせ場所行かなくて良いの。待ってたのに待たせちゃ早く来た意味ないでしょ」

時計を見ると確かに彼女が遅れる予定時間の十分ほど前になっていた。
ったくなんでこいつはこんなに読みが良いのか。
またも若菜は気持ち悪い思いをした。

「失敗したら慰めてあげるからいつでも泣きついておいでー」
「うれしそうに言ってんじゃねえよ。ありえねえから安心していいよ英士君」

てか語尾伸ばすなっつうの。
手を振るには深すぎる仲の親友に口だけで軽くじゃあと言って、若菜は待ち合わせ場所に足を向ける。
振り返ると大して目立ちもしない(目立つとしたらあの刈り上げか)黒い頭は人ごみにまぎれて見えなくなっていた。


20070731