それぞれのたんじょうび
いろんなむくつなで骸を祝ってみました。(だらしない君、もらとりあむ、12×20、大学生、子供同士(ブログ)、大人と子ども(ブログ)、ゆかいななかまたち、純愛コンプレックス)
コロコロを使ってみる編(だらしない君/拍手にいるひとたち)
「なんで誕生日プレゼントですよってコロコロを替え含むで渡されなくちゃならないんですかー」
ぶつぶつと呟くその背中は丸く、細長い腕だけが左右だったり良く見てみれば一過性のない方向だったりに動いている。
コロコロというのは通称なのかそれとも商品名なのかわからないけれど絨毯や何かの埃や髪の毛を粘着剤の付いた紙でひたすら取ることができるという手作業であるのになぜか効率の良い優れた文明の利器で、かつて世界大戦を企みそのコロコロを手渡した人物であるところの大マフィアボンゴレ十代目候補沢田綱吉の身体をのっとることで裏世界を牛耳ろうとしていた六道骸にその何でも良く取れる性能からなのか効力をなくした部分をはがそうとすれば手にくっつき変なところで破れる特徴からなのか「おお」とか「わあ」とか「綱吉くんがこれを思いやりだと思っているのなら間違いです」とか言わしめているものである。
渡した綱吉の方はそれと少し離れた台所でシンクをがりがりと擦っていた。
重曹と台所用洗剤を混ぜて磨き、水垢なんかを落としてぴかぴかに磨き上げる。
普段あまり使われないせいでそれほど汚れてはいないが、台所は磨けば綺麗になるからやれば達成感とやる気が出ると聞いたことがあったのでやる気を削がれやすい、気もそぞろになりやすい綱吉には比較的好きになれる掃除の一つだった。
ゴミや服や本が乱雑に積みあがっていた部屋の整理は数日前にほとんど終わらせていたのでそれくらいしかやることがなかったとも言える。
骸がコロコロを転がす部屋の中もいつも悲惨な状況からは想像できないほど整頓されていた。
もともとそんなに何かを買い込む方ではなく執着もあまりないのか整理するとなればあれもこれもと次から次に捨ててしまうので殺風景に思えるくらいだ。
普段からそうすれば良いのに忙しいとか頓着しないとかいう理由で溜めに溜めてしまうらしい、その性質のせいで綱吉はよく骸の部屋を訪ねて掃除をさせたりご飯を食べさせたりしているのだがこの六道骸というのは何もかもに関心が薄い。
手先は器用で要領もいいのに服は放ったままにしているし、その気になれば外食もできるし料理も作れないわけではないのに一日二日なら食べなくても平気そうにしている、そういえば食べていませんでしたくらいのことを思い出したように言うものだから綱吉の方が慌ててどこかに連れ出すのだ。
服や格好にはやたらとこだわるくせに中身の方はちぐはぐで、時折成長を忘れたような部分が顔を出す。
仕方がないと世話を焼きながら愛しく思うような、同時に胸の中にもやもやと拭い去れないくもりが生まれるようなそんな瞬間が何度もあった。
コロコロでは取ることのできない壁の染み、フローリングの床にべったりくっついて取れなくなってしまう粘着剤を連想する、ざあざあと水を流して仕上げに水分をふき取れば気持ちのいい台所ができあがる。
一つのくもりもなく、ぼんやりと綱吉の顔が映った。
「骸さん」
後ろから伸ばされた襟足部分の髪の毛をつんと引っ張って一心にコロコロをかけている骸の気を引く。
少し不機嫌な、ともすれば拗ねたような顔があった。
ついでに丸みのない頬を濡れた手でつついて笑ってやる、さらに眉根が寄せられ綱吉はくすくすと楽しげで骸につつき返されてもしばらくそうしている。
「ごはん、一緒に作りましょう。材料と、ケーキも買って。今日はちゃんと食べてください」
「そんなので僕の機嫌をとろうなんて」
「そしたら改めてプレゼントあげますから」
いきなり抱きつかれて服が散乱してないとこういうときに痛い思いをするんだなと一つ学習した。
しつりょうほぞんのほうそく(もらとりあむ/シリーズになってるひとたち)
その日の骸はやっぱり色んな物をもらっていた。
朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあったんですとでれっと家族自慢を零した後(六道家はクリスマスと誕生日を取り違えているのじゃないかと俺は一瞬だけ心配した)校門に差し掛かれば六道会長おめでとうございますこれ誕生日プレゼントですとかおめでとうございます好きですとか無言とかでまず片手が塞がり、下駄箱の上やら下やらに(中には手紙、というかバースデーカードみたいなものが何通か入っていた)六道さんへとか会長へとかいう他の生徒にしたら迷惑極まりない荷物がいくつかあってそうして両手も塞がっていた。
骸は嬉しそうというよりも不思議そうにどうして皆僕の誕生日を知っているんでしょうねと呟く、そりゃあそのままだからだよ。
俺はといえば前の土日に骸のマンションでお祝いをやったからプレゼントもそのとき渡してあって今日は朝迎えに来てくれたときにおめでとうと一言言った。
いつもは家が近いわけでもないし骸は生徒会の仕事で早かったりするから一緒に登校なんてしないのだけれど、土曜日泊まったときにそういう話になって、俺もまあ一日くらいなら早起きしようと思ったのだ。
なんでそういう話になったとかそういうことは恋人同士だからってことで経緯は省かせて欲しい。
リボーンは骸が迎えに来ただけで察したのかちょっと鬱陶しそうな顔をしていたけれど見ない振りをして、時間に余裕があったのでだらだらと学校に向かった。
手を繋ぐのはさすがに丁重にお断りしたらじゃあ埋め合わせを考えてくださいとか恨めしげに言われた。
どんな埋め合わせだよ。
話を戻そう、教室に着くまでにいろんなものをもらった骸は教室に着いてからも紙包みをもらったり餌付けのようなことをされたりいろいろ祝われたらしい。
ちなみにそれをうるさいと生徒たちを咬み殺しに来た雲雀さんにも出会い頭の強烈な一発をもらったらしい、荷物や何やらで両手が使えなかった骸が足で応戦しようとしたが「君も覚えやすい日だよね」という独り言のようなお祝いの言葉を残して去っていったとか何とか。
あれがお祝いというなら風紀委員会は労いという名の暴力を受けているんですかねとぼそりと呟かれた言葉はなかったことにした。
そして昼休み、お弁当を食べてからでもいいので生徒会室に来てくださいとメールで呼ばれた訳は食べきれないものの処理だろうなとなんとなく想像していたらその通りで、いくつか置かれた長机の一角にこんもりとそれらプレゼントは盛られていた。
「処分に困らないようにと食べ物にしてくれたのはありがたいんですけどね。こんなにあっては」
犬はなんでも食べますが食べすぎはお腹を壊しますし他の子は揃って小食なんですとまるで子を持つ母親のような心配をして真剣に眉を顰める六道骸はとりあえず賞味期限の早いものだけもらってくれませんかと俺に言う。
「他の、生徒会の人とかにあげればいいだろ」
「お菓子を一緒に食べるとかならまだいいですけどね。さすがにケーキをまるごとあげるなんてもらっておいて失礼でしょう」
「俺にやっても同じだと思うんだけど」
「君は僕の、おや。それもそうですね」
確かにとまた更に顎に手を当てて考え込んだ骸の言わんとしたことがなんとなく分かって横隔膜の辺りがひくんと揺れる。
「じゃあ放課後、またここに来てください」
「え」
「一緒に食べたらいいですよね。残りは持って帰ってください」
蝋燭も要りますかねと言う骸の色違いの目がさっきと違って楽しそうだったから俺は頭に血を上らせて冷や汗をかいて、しぶしぶ承諾する振りをして教室に戻った。
話をしたら結局獄寺君や山本、京子ちゃんや黒川やお兄さん、最終的には六道家の三人と一人やハルまで呼び出し、風紀を乱すなと怒り心頭の雲雀さんをなだめすかしてにぎやかしく骸のもらい物を食べる会は暗くなるまで続くことになる。
帰り際に荷物は減りましたが誕生日なのになんだか釈然としませんと言う骸には、片付けのときにどこかの袋から飛び出たクランチ入りのミルクチョコを朝の埋め合わせといって渡してやった。
かげのなか(こどもむくろとせいじんつなよし/いつも季節外れのひとたち)
「ろくがつここのか?」
頷いた僕に綱吉はそっかあろくがつここのかってむくろのたんじょうびかあと寝ぼけたように繰り返した。
昨日飲み会だったんだよおとゆるく言い訳する綱吉は眠そうでだるそうではあったけれど二日酔いってやつではないと言い張っている。
二日酔いは頭が痛かったり吐き気がしたりするもので、これは夜更かしのせいで眠いだけなんだよ俺あんまり酒飲まないしとさっきまだ僕には実感できないことを説明してくれた。
直射日光の差し込まない管理室は涼しく、扇風機のせいかふいふいと少し湿ったような風が髪の毛の間を通り抜けて外からはきゃあきゃあプールで遊ぶ声がする、そんななかで僕と綱吉―――綱吉お兄さんは二人とも夏の間にはない誕生日のことを話題にして管理人さんがいつも置いていってくれる冷たい麦茶を飲む。
「もう過ぎちゃったんだねー」
ふあいとあくびをする綱吉はどう見ても心ここにあらずで一回だけ飲んで少し減っただけの麦茶をじっと見て目を瞑ろうとしている。
プールに落としたら目も覚めるかもしれないけれど生憎僕は綱吉よりも小さいし体重も軽いからできそうにもなかった。
「去年も、今年も雨でした」
「ちょうど梅雨入りだもんなあ。おめでとうだったね」
「ありがとうございました」
眠そうなおめでとうに一応お礼を返すと綱吉はだらんとした顔のまま口と目を緩ませて、笑ったのかもしれないし目を開けたまま眠ってしまったのかもしれない、僕にはどちらかわからなかったけれど、突然立ち上がるとゆらゆら流れるプールに浮かんでるみたいに歩いて放ってあった鞄に力の入っていない手を入れる。
「なんか、あったかなあ」
「なにがですか」
「誕生日プレゼント」
「えっ」
びっくりしてききかえすと俺結構いろんなもん入れたままにしてるからとまだ夢の中みたいな声が返ってきて、いれたままだったものを誕生日プレゼントなんて食べ物だったらさすがに嫌だなと僕はぬるくなってきた麦茶をちびっと飲む。
「骸は何がすきだっけ」
「チョコ、ですけど」
「さすがに暑いからそれは入れてないな」
「もらってもうれしくないです」
俺もという声がちょっとはっきりしていたからさっきよりは眠くないのかもしれない、探っていた手が止まってこれしかないのかみたいなことをこっそり呟く、聞こえているけれど僕はだまって綱吉の跳ねた茶色い髪を見ていた。
よく観察すると整えもせずに出てきたのか後ろの右側だけぺたんとねじれるように違う方向を向いていてなでつけてあげたくなる。
「ほら、これ」
軽く投げられた何かピンク色の丸い形をしたものを両手でつかまえる。
かたいけれど弾力があって僕の手でちょうど包めるくらいの大きさ。
「夏祭りでやったんだけど、俺それいっこしか取れなくて」
「これ、ほしかったんですか」
「いや」
金魚とかひよこは育てられないしさ、友達とはぐれちゃってなんか暇だったし。
友達というのは恋人とか、気になるひととか女のひとかもしれないし、金魚やひよこはそのためにとってあげたのかもしれないと少しだけ思いながら手の中の濃いピンクのスーパーボールをぎゅうっと握る。
ちょっとざらざらした。
「今度一緒に行こうか」
そのときまたなんかやるよと笑う綱吉に僕はどうしてかむっとして握っていたものを投げる。
それは綱吉のおでこと壁と床を何回か跳ね回って机の下で静かになった。
あーもうなんだよ悪かったよそんなんで!とやけくそのように目に涙の膜を張って綱吉が言うから、僕はにごった胸がすっと晴れるような気がして今度はちゃんとお礼を言った。
甘いもののない日の恋さがし(大学生/恋をするひとたち)
一応自分の生まれた日に代表命令で今日の昼休みは部室に来い絶対来いと言われればなんとなく何をされるか察しはつくものである。
そもそも自分のサークルでは学校がないかぎり誕生日の人間を祝うという慣習があるから前の月にも一回やっているし、今日はそれを自分がされるだけなのだと思うが何となく気は進まなかった。
2サークル合同で使う部室は狭いし人口密度が高くなると息苦しい気さえする。
騒ぐのはいいが隣のサークルには毎度言付けたりしないらしくうるさそうに睨まれているのを知っているし昼休みなのだからろくに話す時間もないということは明らかだ。
彼は上の人間に言われれば基本的に逆らわない姿勢だからきっと今日も来ているだろう、少々の期待はしても実らない想いだという自覚はあるから、ただのサークル仲間として義務的に祝われるだけで済まされるなら会わずに何も言われない方がましに思えた。
「おめでとー!」
クラッカーが鳴らされて派手な音が響く、やっぱり隣人には睨まれていたが祝われているのが骸だと知ると土産物なのか菓子をいくつか投げられた。
自分が整った顔立ちをしていることは認識しているがプレゼントをくれたのはおそらくたまに物の貸し借りをして交流があるからだろう、誰が持ち込んだのかコレクションされた大量の漫画や本のなかにはたまに驚くようなものまである。
土産物は温泉饅頭だった、ゴールデンウィークもとっくに過ぎたというのにいつのものだろうか。
「六道って彼女いないんだよなー今日は寂しいな!」
「ばっかお前と違って誘えば誰でもついて来るんだよ」
「本命にはよく振られますが」
「えーうそぉ」
主役であるはずなのに用意されたケーキはほとんど食べられて一口分しか残っていなかった。
顔に似合わない甘党であることは幾人かには知られているはずなのにこういうときには薄情である。
結論から言えば授業が始まる五分前になっても骸の本命は現れなかった、何も言われない方がましだと思ったが姿すら見られないのも随分寂しかった。
今日は一緒の授業はないはずだから次に会えるとしたら二日後だろう、会えない日を数える癖はいつの間にかついたものだ。
「あ」
空いた時間を潰そうと図書館の書棚を見るとはなしに見ていると唐突に驚いたような声に振り向く、直感の通り沢田綱吉がその顔が埋もれてしまいそうなほどの資料本を抱えて後ろに立っていた。
「ろ、六道君」
焦る様子に重いのだろうと半分くらいを手助けしてやる、彼はやはり骸に比べて数段小さかった。
「あっ、ごめん。そうじゃなくて、誕生日おめでとう」
俺今日提出のレポートまだ終わってなくてそれで行けなくて何にも用意してないしと周囲にあわせるように無声音を混ぜて言う。
「とりあえず、座りましょう。席はどこですか?」
「そうだよね、こっち」
連れられて綱吉がどさりと本を置いたのは二人用の席で、テスト前でもなければ休み時間でもないせいで周囲は閑散としていた。
骸も荷物置きにされている片方に持っていた本を置く。
「ごめんね。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます。知っていたんですか?」
「いや、昨日メール来て、それで」
土日ごろごろしちゃっててさあやれば終わったのにと苦々しく呟くのがなんとも綱吉らしいと思う。
「今日提出なのに今からこんなに読むんですか」
「あの。どれ読んだらいいのかわかんなくてとりあえず片っ端から持ってきちゃった」
間に合うかなあ間に合わないとやばいよと苦笑する綱吉の鞄を勝手にどかして骸は空いた椅子に座った。
「へ」
「手伝いますよ。これに似た授業を去年とったので」
「え。わ、悪いよいつも六道君に手伝ってもらってばっかだし」
「誕生日なのに、暇なんです」
誰か一緒にご飯でも食べてくれる人を探してたんですと図書館であることにかこつけて耳元に口を付けるような近さで言うとどうしてか頬を少し赤くして俺お金持ってないからおごれないよと机上の本を忙しなく視線が辿る。
おごりますからと言うとそれは何か違うだろと大きめの声をだすから綱吉の唇に指をあててしぃ、と宥める機会を骸はもらった。
今日はいい日になりそうだと身勝手な思考にひたっても許される気がした。
あじさいはまだ咲かない(子供同士むくつな/遊び場のひとたち)
「むくろくんは今日で何歳かな」
「ろくさいです」
「じゃあこれからは下の子の面倒も見てあげてね」
こくん、と頷いた骸は六歳になったばかりにしては随分賢く大人びて、手もかからなかったから先生は自分ひとりで何でもできるように、とかおうちの手伝いをちゃんとして、など他の子に言い聞かせるようなことは口にせずに少しだけ自分の世界やごく親しい友達の間にこもりがちな彼へのはなむけにそれだけ言った。
「おめでとう。これは先生からよ」
「ありがとうございます」
『ろくどうむくろくん ろくさい おたんじょうびおめでとう』と書かれた紙の上に骸の写真が貼り付けてあるそれは誕生日が来た園児たちに必ず渡されるもので六月生まれの骸の場合は折り紙で作った紫陽花が台紙の代わりをしていた。
一応首にかけるようにリボンが付いているのだが彼はそれを一度見ただけで首にかけることはしないらしい、きっと自分の写真を誕生日にもらうなんて変だとか、あまつさえ首にかけるなんて、とこの子くらい大人びているならそういうことも思うかも知れないと先生は一つだけ苦笑を漏らす。
誕生月の子たちを集めたおたんじょうびかいはまだ先だからその前に来た子にはこうやって一人ずつお祝いを言うのがきまりになっている。
保育士になってやっと三年目の先生は紫陽花の折り紙に慣れてきたくらいだったから良い出来だと思ったのにお気に召してもらえなかったのはちょっと残念な気分だった。
「むー、きょうおたんじょうび?」
「そうですよ。きょねんもやったでしょう?」
むー、と骸を呼んで近づいてきた綱吉は骸と違ってまだちょっと手のかかる、もうすぐ六歳を迎えるにしては随分幼い印象の子で、その綱吉と骸が大の仲良しなのは意外なようでいてその実本人同士にしてみればぴったり噛み合っているのかもしれなかった。
綱吉がままならない部分は骸が世話を焼き、骸が興味のないところには綱吉が連れ出してとなんとも微笑ましい。
ふるふると首を振る綱吉はおそらく去年の誕生日のことを覚えていないのだろう、おれもむーのおたんじょうびするのにとちょっとつたない言葉と、目のふちにみるみる溜める涙でもって歯がゆさを訴えっている。
「つなくん、おたんじょうびの人にはなんて言うの?」
余計なお世話かと思ったけれど先生は助け舟を出すことにして綱吉に向かって微笑んだ。
驚いたように先生を見た綱吉は慰めようと差し出された骸の手と、顔とをじっと見てから零れそうになっていた涙を何とか擦って引っ込めるとにこっと、あどけなさを残した愛らしい満面の笑みを浮かべた。
「むー、おたんじょうびおめでとう」
骸の方は笑顔ではなかったけれどそれでも嬉しそうにありがとうございますとそっぽを向いて頬を染める。
ああ可愛い写真に撮っておきたいと子ども好きがもとで保育士を目指した先生は同僚の姿を必死で探したけれど、この教室内にはお絵かきに夢中になっている子たちが何人かとそれから骸と綱吉と自分しかいなかった。
園児の可愛らしい姿を写真におさめることはできなかったが二人とも嬉しそうにしているのでまあよかったかと思いながら、お昼寝の時間まで外で遊んでおいでと促すつもりで周りに向けていた視線を戻す。
と、先生は驚きで一瞬自分が何を言おうとしていたのかすっかり忘れてしまった。
綱吉の唇が照れたように横を向いている骸の頬に触れている。
いわゆるほっぺにちゅー。
どこで覚えてきたのつなくんと取り乱しそうになって息を呑む。
「ぷれぜんとなくてごめんね」
「いいですよ。つなよしがおめでとうっていってくれたらそれでうれしいです」
仲良しと言い留めるにはなんだかもっと甘い空気や効果音を吸い込んだ気がして先生ははっとしたように頭を軽く振る。
「二人とも、みんなと一緒にお外で遊んでいらっしゃい」
「「はーい」」
元気のいい返事に大事な教え子の将来を真剣に憂うか口ではないからただのスキンシップみたいなものだ今の子どもはおませさんだからと見てみぬ振りをするか手をつないだ二人の後ろ姿にしばらく頭を抱えた先生だった。
あなたのすべて(大人と子ども/秘密の恋人同士なひとたち)
いわれた言葉に骸は頭が真っ白になった。
首の後ろ辺りに回る細い手、自分の太股をきわどい位置で跨ぐ面積の少ない短パンから伸びるやわらかいけれど骨がところどころ突き出たような脚のせいでもう随分動揺しているというのに、上目遣いの表情が、小さな舌の覗く薄い唇がそんなはずはないのに妖艶にすら見えているのに。
「お誕生日プレゼントは俺ね」
景色が揺れる気がした。
いつも待ち合わせする公園に今日はどうしても来て欲しいと言われて開口一番にお誕生日おめでとうなんて言うから自分ですら忘れていたというのにと驚き、そしてこれ以上ないくらい嬉しかった。
しかしそれだけではないプレゼントは骸さんちに連れて行ってくれたらあげるからと必死に言われて、楽しみなのもあったし骸自身少々浮かれていたのかもしれない、家に連れてきて晩御飯まで食べさせたところでつかまって、そうして一昔前の漫画にあるような台詞を口にする。
「綱吉、あの。そんなことを」
むやみやたらに言うものじゃないと言う前にぎゅっと抱きつかれる。
子ども特有なのか、それとも綱吉が使っているシャンプーの匂いなのかやわらかくくすぐったい、甘い香りが鼻腔を刺激して欲望そのもののような思考が脳を支配しそうになっていく。
「なにするか、しってるもん」
「や、あの、きみは」
「いっしょにおふろはいろ?」
今までに真似事のようなことをしたことはあった。
けれどその度にごまかすようにして踏みとどまってきたのだ。
犯罪者だとか倫理上だとかそういう思考は恋人になろうと決心をしたときに捨てていたけれど、綱吉の小さなからだにそれを強いるのはどうにも躊躇われ、いつか彼が成長して、そうしてその意味を理解して同意を得られたときにと思っていた。
綱吉を好きになったのは小児愛好者だからではないし、恋人同士になったのも己の欲望を満たすためではない。
だからこそ男性ゆえの衝動を押しとどめることもできたし、大人らしく誤魔化すようにしてくることできたのに、恋人の方はそれが不満だと、だいすきだからいいのにとことあるごとに言う。
例えばこんなふうに、何より強い力を持つ恋人の可愛らしい誘惑に抗うすべなんてもうとっくに出尽くしているというのに。
「どこで、そんなことを」
「むくろさんはおれがいらないの?うれしくない?」
必死に、懇願するように言われる言葉にそんなはずはないと言い返しそうになって慌てて飲み込み、奥歯を噛み締める。
「綱吉のことがだいすきですよ。愛しています。今日一緒にお祝いしてくれただけでも十分なんです」
それも本心だったが、君の全てが欲しいし独占したいという言葉の方は仕舞い込み、駄々をこねるようにしがみついて頭を振る恋人を抱え込むように抱きしめてそっと頭を撫で、遅くなりましたから送りますよとそれだけ舌に乗せた。
「やだ、いっしょにおふろ入って、いっしょにねる」
明日も学校だということは自覚しているのか綱吉の声は小さく断られることを怖がってもいて、それが骸にはたまらなかった。
つなぱんとむくきんとちょこれーとけーき(ゆかいななかまたち/たたかうしゅくめいのひとたち)
きょうはあいにくの雨でした。
みずにぬれるとちからがでないつなぱんまんは朝からじめじめとまちをおおうしっけにこまって、きょうはパトロールはあきらめるしかなさそうだと思っていました。
もしかしたらむくきんまんがせめてくるかもしれませんがそのときはあまがっぱでもかぶって出ていくしかありません。
しかたがないのです。
正義のみかたには土日も祝日も夏休みもないのですから。
たいする悪いやつのほうにはあるらしく、毎日せめてきたかとおもえばぱったり来なくなったりして、まったくこっちのつごうも考えてほしいものだと不満がたまるのです。
とくにつなぱんまんはむくきんまんがせめてこない日がつづくとどうしてかそわそわして落ちつかなくなってしまうのです。
原因はよくわかりませんがきっとむくきんまんと話すとどきどきしたり、急にたたかいたくなくなったりすることとかんけいがあるのでしょう。
けれどりぼおじさんやしょくぱんまん、カレーパンマン・ハヤトにきく気にもなれませんでした。
りぼおじさんに言われてパンのタネをこねていると、どうやら少しだけ、雨は弱まってきたようです。
ずっと向こうの雲からは少しだけたいようの光がかおをだしているようにもみえました。
そのときとつぜん、パン工場にせっちされたさいしんしきのけいほうきがすごい音でなりひびき出しました。
これはむくきんまんやほかの悪いやつらがせめてきたときに知らせるものでつなぱんまんは雨がまだふっているのにとためいきをつきながらオレンジ色のあまがっぱを出してかぶると外へ飛びだしました。
弱くなったとはいえ空から落ちてくるとちゅうのあまつぶがときどきつなぱんまんのかおにあたってパン生地にしみこんでいきます。
力がぬけきるまえにはやくかたずけてしまわないとと急ぐと、むくきんまんはいつものようにうちゅうせんのようなきかいにのって森であそんでいたこどもたちをおどかしたり、木をなぎたおしたりしているようです。
つなぱんまんは防水だと思ってとむくきんまんをうらめしく思い、きょうはてかげんしないと固くけっしんするのでした。
「おい、むくきんまん!わるいことをするのはやめろ!」
「おそかったですねつなぱんまん!かおがぬれて力が出ないんですか?」
わかってるならこんな日にくるなと悪役としては正しいむくきんまんをこころのなかでせめながらつなぱんまんはこんしんのいちげきをうちゅうせんのとうめいな部分におみまいします。
割れることはありませんでしたがぴりぴりとひびが入り、むくきんまんがむっとかおをしかめました。
「あれ?」
そこでつなぱんまんはあることに気がつきます。
むくきんまんのとてもととのったかおの口もとに、ほくろのような黒いかたまりがあることに。
「おまえ、ちょこたべてきた?」
言うのと同時に二はつめのぱんちをくりだしてとうとうひびのはいったぶぶんをすっかり割ってしまってから、もういちどつなぱんまんはむくきんまんのかおをじっとみて、やっぱりチョコレートが付いてることをかくにんします。
「きょうは、ぼ、ぼくのたんじょうびなのでおいわいしてくれたんです」
はずかしそうに赤くなって口もとをぬぐったむくきんまんですがまだかんじんのちょこのぶぶんはのこっています。
おいわいしてくれたのはドクロちゃんというあの小さい子とかびるんるんとやみるんるんだろうなと思いながらつなぱんまんはなんとなくかおにのこったままのちょこをぺろりとなめました。
「な」
「ばいきんにもたんじょうびってあるんだな。おめでとう」
これいじょうないくらい目を見開いたむくきんまんは赤くなっていたかおをさらにまっかっかにそめて、パンチもあてていないのにおぼえていなさいといって逃げ出してしまいました。
つなぱんまんはというと、なめた舌がぴりぴりしだしたところでちょっとだいたんなことをしてしまったかなと両手をほおにあてててれているのでした。
くものあいだからはもうすっかりたいようがかおをだして、かおをかえたらしっけになやまされずにすみそうだとつなぱんまんはパン工場へのかえりみちを急ぐのでした。
はじめてのお誕生日会(純愛コンプレックス/お茶のみともだちなひとたち)
「むくろさんのおたんじょうびってこんどなの?」
まだ床に届かない足をぶらぶらさせてチーズケーキをつつきながら綱吉は言った。
目の前でシフォンケーキを食べている骸はにこにこして綱吉くんは十月なんですねと返して紅茶を一口飲んだ。
「そうじゃなくて!おいわいしないの?」
一緒にケーキや美味しいものを食べに行くという約束が二人の間でできたのはついこの前のことで、社会人の骸が小学生の綱吉に合わせられる日はこうやっておやつのじかんをともにする。
毎週とか毎月とか、かならずできる保証のない約束で、携帯電話をまだ持たせてもらっていない綱吉は本当に来てくれるのか、急に忙しくなったりしないか不安で仕方がなかったけれど、骸は今日もしっかり迎えに来てくれていた。
連れてきてくれたお店は学校の近くの商店街のなかにあって、たまに買い物などで連れられてくる綱吉も気付かないくらいの小さなところだった。
お店の中も家具もおとなにあわせるにしては小さめでそこに背の高い骸がおさまっているのが、ちょっとだけ可愛らしく可笑しい。
おたんじょうびにケーキはたべないのと重ねて訊いた綱吉に骸は大仰なくらいに驚いた顔をした。
「えっと、綱吉くん、いっしょにお祝いしてくれるんですか?」
「あ、こられないなら。あの」
言ってしまってから大人は小学生みたいにおたんじょうびかいなんてしないのだと気がつき、恥ずかしくなってそっと俯く。
ちょっと待ってくださいと慌てて鞄を探る音がしてきっと手帳を確認しているのだろうなと思う、予定をあわせるときには骸はいつも彼の掌におさまるくらいの黒いぴかぴかした革の手帳をめくっていた。
綱吉には読めない字で、何事かたくさんの予定が書き込まれてあるそれが、綱吉はあまりすきではなかった。
「あ、えっとお休みではないんですが。夕方なら。いつもより遅い時間になってしまいますが」
「え」
やっぱり遅くなるのは良くないですよね、その週の金曜日ならと予定を変えようとする骸に、綱吉は思わずだめっ、と気付いたときには大きな声になってしまっていた。
「たんじょうびはその日にやらなきゃだめなんだよ!」
「でもあの、親御さんが」
心配しますよと困ったように眉尻を下げる骸にともだちのたんじょうびかいだって言うもんと綱吉は言ってしまえばその通りのことを言う。
「誕生日会なんて僕やったことありません」
嬉しそうなのか困っているのか複雑そうな顔で、でもありがとうございますと言って骸はもうちょっとお仕事が早く終われないか調整してみますねと帰り際の綱吉に約束する。
どうして自分があんなに必死になってしまったのかわからなくて混乱してしまっていた綱吉は約束なら指きりかなと差し出した小指を、骸が真っ赤になってしばらく見つめていたことには気がつかなかった。
「はりせんぼんのまされるのはいやですね」
「守らなかったらほんとにのますからね!」
そう言ったのはやっぱりだめになってしまったときに謝られるのがどうしてかものすごく嫌だったからだった。
はっぴーばーすでーむくろ!ここまで読んでくださった方お付き合いありがとうございました!!
20090609