あしもとにクロタネソウ










「どうして助けた、ボンゴレ十代目」

白く清潔なベッドの上で痩せた青年が横たわっており、その横の簡素なパイプ椅子に長い黒髪のサイドだけを残して結い上げたスーツの女性が座っている。
青年の目は死んだように閉じられ一方の彼女はまっすぐ綱吉を見ていたから、声を発したのがどちらなのかは明らかだ。
耳を震わす声は確かに女のものではあるのだけれど、含まれた険が彼女が彼女ではないことを証明し、悲しいことに馴れ親しんだ背中の悪寒が何より自分の対峙しているものが誰であるかを知らせていた。
ただいつもは慇懃無礼そのもののように馬鹿丁寧な口調が崩され語尾が荒い。
プライドが高い彼には本当に稀なことだ。
もしかしたら彼の怒りがそれほどのものである、ということを察しの悪い自分に露骨に演出してみせているのかもしれない、そういう芝居がかった仕草をやたらとしたがる男だから。
しかし綱吉は彼もまた戸惑っていてどうしたらいいのかわからないのではないか、という希望的観測を捨てきれずにいた。
そうだったら今までの物事ももっと簡単だったはずだという考えはひとまず見ないようにしておこう。

「お前、まだちゃんと回復してないんだから体に戻ってろよ」

彼の発した疑問に答えることはせずに、綱吉は自分が彼の身を案じているということだけを伝えた。
目の前の女性というにはあどけなく、少女というには艶めいた愛らしい顔がくっ、と歪められた。
眉間に皺が寄り、見えている方の眼が細くなって口元だけが不自然に吊り上がる。
それは彼がよく見せる嘲笑うような、怒りに打ち震えて心の底から目の前のものを憎むような表情だったから、綱吉は場違いにもああ懐かしいと震えるように思ってしまった。



沢田綱吉は一週間前に六道骸を復讐者の牢獄から解放した。
骸が犯した罪を償うには十分な時間とは言えなかったが、巨大マフィアであるボンゴレと、時期十代目である綱吉の働きかけによって彼を生涯マフィアに縛り付けるという条件でそれはなされた。
力を封じられてもなお特殊な形でマフィアの壊滅を図る六道骸という存在を押さえつけるのは物理的なものでは難しい、というのがこの数年で復讐者たちの出した結論なのかもしれなかった。
ただし六道骸が再び何らかの裏社会のルールに反することをすればこの限りではない、という契約条文を思い出して綱吉は軽い溜息を吐いた。
鎖もなしに、いやたとえ鎖があったとしても、骸をつなぎとめておける自信などあるはずもなかったのだ。

水牢に長く捕えられていた骸の身体はまともな歩行もできないほど衰弱していた。
他人に憑依する、という特異な能力によってわかるように意識ははっきりしすぎるほどしているのだろうが、長い間声を出していないせいでまともに話すこともままならないらしく、三日前に「みず」という弱々しくかすれた声を聞いたきりだ。
その強すぎる能力で体を具現化し、普通に生活することもできるにはできるようだがそれでは本体の方が持たないというのは容易に想像できた。
だから骸は水牢に囚われた時から身体を共有するクローム髑髏を介して意思疎通を図るという手段を選んだようだ。
最初に面会に来たときは眠っていて、二回目に来たときは本体にいた彼に睨まれてすごすごと帰ったから、きちんと話をするのは彼が解放されて今日が初めてということになるのだが、どうやら穏やかに和やかにとはいかないらしい。

「僕の身体を心配してくれるとはね。ボンゴレは随分おやさしい」

人の話を聞かない、というか聞いて理解した上でひねくれた答えを出すようなやつにしては珍しく言葉の意味そのままを受け取ってくれたらしい。

「当たり前だろ。心配してないやつのこと助けたりする複雑なこと、俺できないし」

困ったように笑う綱吉を見て、相変わらず単純馬鹿のままなんですか、成長してないですねと骸は独特の笑い声をもらした。
そうして表情は柔らかくなったものの、部屋を満たす空気は相変わらず張り詰めていた。
視線の置き場に困った綱吉は、今は意識のないベッドに横たわる骸の身体に目をむける。
日の光を全く浴びていないせいか、青白く見えるほど真っ白な肌、そして明るい場所で青く光る髪は室内が薄暗いせいか今は漆黒に近い。
外にいたころも幻覚であっても神経質なほど同じ形をしていたそれは当然ながら流されるそのままになっていて、なんだか奇妙に思えると同時に形振り構っていられないほど彼が弱っていることを痛感させられて、のどの奥が閉まるような息苦しい心地がした。
シーツからは左腕だけが出され、青年にしては細すぎる腕には点滴の針が刺さっていて、細い管からは、見えないけれど流れていく薬液の音まで聞こえるような気さえしてきた。
彼にはしばらく人工呼吸器が使われていたらしいが、どうやら「呼吸まで怠けると本当に一生寝たきりになってしまいます」とか何とか言って自分で(もちろん自らの手によってではなかったが)外してしまったらしい、数冊の本などが置かれた木の棚の横に銀色の機械が所在無さ気に沈黙していた。

「どうして、たすけたんですか」

今度は殊更ゆっくりと、確認するように骸が尋ねる。
その顔から表情は読み取れない。
いや、出会ってから今まで何を考えているのかわかったためしなんてなかった。
この男はいつだって完璧に計算された微笑を浮かべているだけなのだから。
そこに微妙な変化があるとわかるようになったのはつい最近のことで、どのように違うのかを見分けたことはない。

「君が助けたところで六道骸は変わらない。六道骸はマフィアだとか世界への憎悪を忘れられない。赤い右目も捨てられない」

まるで他人事のように冷静に、言い聞かせるような言葉だった。
一度息を吸ってから、綱吉が特に何も口にしないのを見てさらに続ける。

「別に君のことは嫌いじゃない。僕にしてみればかなり気に入っているほうですよ。ボンゴレ十代目」

は、と驚いて大きな目をさらにまるく見開いた綱吉が何かを言う前に手をかざして制して彼は続ける。

「でも助けてもらった、いやそうではない。復讐者の牢獄から出されたことを感謝してもいないし、マフィアの殲滅をやめようなんてこれっぽっちも思えない。僕は、六道骸だ。だから、どうしてだと訊いている。」

その疑問に綱吉はすぐに答えることができなかった。
骸が自分のことを嫌いじゃないと言ったことも驚きだったが、彼の問いかけに対して浮かんだ自分の言葉はきっとこの場では安っぽく聞こえてしまうように思えたからだった。
それでも、あまり物事を理屈で考えることが苦手な綱吉にはそれ以外のものを用意できるはずもなく、しばらく逡巡して、声を出した。

「ほっとけなかったんだよ」

「お人好し、いや同情ですか。そんなんでよくあれだけ動けましたよね。きみマフィアよりボランティア団体とかに所属したほうが性に合ってますよ」

からかわれているのかと思ったが骸は意外にも真顔だった。
そういえば、彼の部下が言っていたことを思い出す。
無口でおとなしい子供だった、ともしかしたら本来はそういう人なのかもしれない。
だからいつも浮かべている微笑はどこまでも仮面めいているのだ。
彼が己に対して笑顔でいる限り、それが演技でないはずがないと綱吉は思っていた。
まあ、戦闘中だとか、人をいたぶっている最中もそうだとは言い切れないが。

「俺、そういうのって向いてないよ。そんなに自分から積極的に何かしたりするほうじゃないし」

「くふ、そうですか。まあそんなのはどうでもいい。質問に答えなさいボンゴレ。逃げ腰は相変わらずですね」

はぐらかした側から回りこまれて逃げ道がふさがれた。
でも、と綱吉は思う。
もしかしたらいつも本音を語らない骸がどうしてか今日は話す気があるようだ。
今を逃して次があるとは思えない。
この前と違うのはドアの前に護衛が立っていないこと。
裏社会すら畏怖する犯罪者とボンゴレの後継者が顔を合わせる場ではかなり無用心だが、二人で話したい、大丈夫だからと護衛の部下に離れているよう頼み込んだのだ。
しかし、人払いをしたと知れれば次の身辺警護には細心の注意が払われるだろう、例えばもう今は名実共に右腕になった獄寺だとかが護衛につくかも知れない。
そうしたら骸は一言だって今のようなことは話してくれない、確信だった。

「同情とか、骸がどんなことを言ってるのかわかんないけどさ。骸のこと、他人事じゃなくなっちゃったから」

「ほう、ボンゴレは僕をファミリーだとか、そんな風に言うつもりですか」

周りの空気がびり、と威圧感を増したような気がした。
身体が拘束されていない分、牢にいたころよりやはり力は使いやすいのかもしれない。

「ちがうよ。まあ、霧の守護者ってことでファミリーとかになるのかもしれないけどさ。ああ、そう、俺、俺の周りにいる人をマフィアとか、ファミリーとかそういう風に 思って付き合ったことないから」

リボーンは乱暴で厳しいけれど信頼できる家庭教師で、獄寺も、山本も友達で、ランボは相変わらず世話のかかる子だけ れどかわいいし、雲雀は怖いし暴力的だけれど頼れる人で、了平はわけがわからないけれど明るくて憧れの人を思い出す、 もちろんクロームも少しずつ話をしてくれるようになって純粋に守りたいと思う。

「みんな、友達とかそういうのだって。マフィアとか関係なくさ、すきなんだ」

自分でも口にするのは随分恥ずかしかったが、相手に近づくにはある程度腹を割ることが大切だとこの数年で学んできた。
目の前の骸に視線を戻すと、なんだか苦いものでも飲んだような、崩れた表情をしていた。
間違いなく女の顔なのに、そこに六道骸本人が重なって見えるようだ。

「甘いというより、恥ずかしいですよ君。鳥肌が」

半袖からのびた白い腕をさする。
まさか僕のこともそうだっていうんじゃないでしょうね!と視線で訴えてきていた。

「なんだよ、おまえ、恥ずかしいよ俺だって!我慢して言ったの、失礼だぞ」

半ば叫ぶようにして言う。
顔に熱が集まったのを感じてさらに羞恥心があおられ、握り締めた手が汗をかくのを感じた。

「勝手に言っておいて。それで他人事でもなければファミリーでもないって君にとって僕はどういう位置にいるんでしょうね?」

先を促すように骸が言う。
どこか伺うようなその響きは、相手を警戒する野生動物のようにも思えた。
それはつまり、油断すれば喰われる。

「わかんない」

「は」

「わかんない、でも、俺、お前のこと放っておけない。あんな、暗くて寒いとこ。それで世界大戦なんて、お前が。マフィア殲滅の前にお前が死んじゃうよ。俺、それ考えたら、こわくて」

「怖い?怖がることなど何もないでしょう。むしろ君は喜ぶべきだボンゴレ」

自分の身体を乗っ取り世界を壊そうとする人間が牢獄の中で自滅し、朽ちていくのをただ見てみぬ振りをすればいい。
それのどこに恐れがあるというのか、目の前の女はそういう意味の言葉を発した。

「僕ならそんな輩は牢に入る前に殺しますが君はそれをしなかったばかりが僕が死ぬのを恐ろしく思う、あまつさえ耐え切れず 死の可能性を潰した。僕に確固とした目的がなければ自殺しているところです」

敵に情けをかけるなとはこの世界に入って綱吉が何度だって言われたことだ。
特に目の前の六道骸に関しては誰しもが眉根を寄せて口をすっぱくしていた。
そういえば、骸を霧の守護者にした父親だけは「そう思うならそうしたらいい」と送り出してくれた。
相変わらず彼と離れて暮らす綱吉にはどういうつもりだったのか未だに分からないままの、それでも勇気付けられる一言を反芻する。

「でも俺は怖かったし、あんなところにいて欲しくなかったんだ」

力が抜けたようにへらりと笑うと骸がカッと頭に血を上らせたような表情をして立ち上がった。
拍子に鳴ったパイプ椅子の音が、耳障りで不愉快だとそれだけの印象を抱く。

「だからどうしてだとさっきから聞いているんだ!答えろ!」

驚きで反射的に肩が揺れる。
実際はそんなに大きな声でもなかったのだが、半ばささやきあうように話していたため随分音量が上がったように感じた。
やはり最初のあれは演技などではなく本当に怒っていたのだ。
女の顔は憎憎しげにゆがめられ、隠された右目のむこうに煉獄の赤が見えるような気がした。

「……たいんだ」

かろうじて喋り出した綱吉の声は震えていて無様にすら聞こえた。
しかし狭い病室で言葉を拾うことは簡単で、簡単だからこそだろうか、骸はしかめた眉をそのままにして怪訝そうな表情を浮かべた。

「知りたい」

「は」

「骸が何を考えてるのか、何が欲しいのか教えてほしい。あんなとこにいたらまともに話もできないだろ。実体ないからすぐ逃げるし。 あ、あっても姿消すのとか得意そうだけどなお前は。弱ってるからひとまず今は大丈夫だよな」

骸は少し怯んだように口の中で「何を」と呟いた。

「悪徳業者ですか君は」

まさしく綱吉はマフィアの十代目だった。
その言葉が可笑しくついに声を出して笑ってしまう。
そうだねと答えると本当に不愉快そうな顔をされてまたそれも可笑しかった。

「知りたい?馬鹿じゃないのか君は。言ったはずだ。僕の目的はマフィアの殲滅と世界大戦で、未来永劫変わらない」

「そういうことじゃなくてさ」

例え身体を狙われることになっても周囲に迷惑をかけることになっても。
骸の呪いのような想いを変えることができなくても他の友人たちと同じような感情を抱くことが難しくても。

「今日俺と話してくれたのは何でなのかとか、お腹減ってたら何が食べたいのかとか、お見舞いは何が欲しいかとか」

ああ、あと退屈な時は何をするのかとか今までどんな国を回ってきたのかとかも聞きたいなあ。
指折り数えながら上げて笑いかけるとそれだけで骸は綱吉が何を言わんとしているかを気付いたようだった。
本当に自分に比べて頭の回転の速い男だと綱吉は感心する。
言葉にできないこの感情も、もしかしたら彼は的確に言い表してくれるのかもしれない。

「ボンゴレは僕を人間扱いする気ですか」

「え。お前人間じゃないの」

問い返すとそういうことではないですと茫洋としたふうに言われる。
言いよどんだ彼の表情を何故だか子どものように感じた。

「僕と一緒に過ごして、僕という人格を知って、どういう感情になるか知りたい?何らかの関係を築きたい?」

視線をさまよわせながらぶつぶつと呟きやっとパイプ椅子に座りなおした骸は綱吉など居ないかのような態度である。
口の中で重ねた言葉を聞き取ることはできない、というか多分日本語ではない。
小さく舌打ちをしたことは分かったがもしかして自分の言い方が悪かったのだろうかということにしか綱吉には考えが及ばなかった。
何と言ったって沢田綱吉は六道骸を知らない。
会話した回数なんてそれこそ数えるほどだし、話も通じない、相手の話の半分も理解できたためしがない。
だから知りたいと思ったのかとそこで感情に理解が追いついた。
過去の話を聞いたときも、犬や千種を守るため自らとらわれたと知ったときも、暗い水牢に繋がれているところを見たときも、抱いた自分の感情はそ れこそ骸が言ったような同情だったのかもしれない。
もしかして六道骸を大して知らない人間でもその話を聞けば感じる一方的なもの。
多少近しくなったからといって、他人事ではなくなったからといって、それでも親しいとは言えないし、先ほどのようにどう 思っているのかと聞かれても分からない。
彼の友人ならば自分はどうするのか。
彼をすきな自分だったなら。
あるいは彼を全く嫌悪するほど、憎むほど強い感情を持っている自分なら。

「ね。骸」

呼びかけるとたった今気が付いたかのように骸が顔を上げた。
唇が辿った動きは多分『さわだつなよし』、ボンゴレではない名前の方だった。

「教えほしい。その後どうなるか、とか考えてないんだけどさ。ちょっとだけ、俺と一緒にいてみない?」

照れたように言うと片方は笑っていて、片方は嫌悪している複雑な顔をされた。
やっぱり感情は読み取れない。
今はそれが少しうれしいような気がした。

「君が僕を助けた理由が如何に身勝手で馬鹿な理由かが良く分かりました。今日話すことができてよかった」

相手の声色は全くうれしそうなものではなかった。
それでもいいかもしれない。
それこそが今の自分と距離だと思うことにした。

「勝手にしろ沢田綱吉。僕は協力もしないし歩み寄りもしないから。邪魔をされたら容赦なく排除するし身体を乗っ取る目的も必ず達成する。せいぜい後悔するがいい」

「うんわかった。ありがとう」

できるだけ満面の笑みに見えるように思いっきり表情筋を使ったところで目の前の女の身体がベッドに向かって倒れた。
彼女の身体が軽いのとベッドのスプリングのおかげでたいした衝撃はなさそうだったが焦った綱吉は思わず冷や汗をかいて変な声を出した。

「うろたえるな。眠っているだけです」

「おまえ、こえ」

話しているのは間違いなくベッドの中で青白い顔をした男だった。
少し掠れていて幾分弱弱しいような気がしたが、低すぎず高すぎず、それだけ聞けば穏やかで、艶のある間違いなく六道骸本人の声だった。
やはり起き上がるには難があるらしく、視線だけが綱吉を向いている。
ピジョンブラッドとサファイアのオッドアイはそれこそ宝石のように室内をそのまま、そのつるんとした表面に映しているだけだった。

「もともとやわにはできていませんからね。これくらいならすぐに可能になりました。話さなかったのはいろいろ聞かれるの が面倒だからです。君の周辺はうるさい」

根掘り葉掘り詮索されていると暗に言っているのだろう。
綱吉はごめんと謝って回復するまでは止めさせると約束した。

「その代わりに君がうるさくなるわけですか」

「うん。ごめん」

「沢田綱吉は楽しそうだ。僕は楽しくない。立場が逆ですね」

確かにいつも楽しげな様子で綱吉の近辺を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して去る骸と火の粉をもろに被ることになる綱吉の立場が今は逆転している。
枕元に近づいて覗き込むと骸は少しだけ眉をひそめて右目を細くした。

「なんですか」

「お前、何考えてんのか全然わかんないから喋ってるときは顔見とこうと思って」

怒られると思ったのだがため息ひとつで済まされた。
体力はできるだけ使いたくないのかもしれない。

「今日はもう帰りなさい。そろそろ過保護なとりまきが心配するでしょう。僕も疲れた」

時計を見ると思ったよりも時間が経っていた。
綱吉が頷くのも確認せずに骸の目が閉じられる。

「クロームは?」

「しばらくしたら起こします。隣の部屋で寝泊りさせていますから」

確かに精神でコミュニケーションが取れるのなら起こすのも自在だろう。
少し気にはなったがあまり口を出すと逆に骸を疲れさせるように思えて綱吉は素直に部屋を出ることにした。

「じゃあ、またくるから」

遠慮がちに言って入るときどころか出るときにまで指紋検査を通らなければならないドアのパネルを操作する。
電子音がしてドアが横にすべると小さな声がした。

「病室に花もないのは殺風景ですよねえ。でも肝心の花瓶もありません」

とりあえず今度見舞いに持ってくる品は決まった。
綱吉は来たときよりも軽い足取りで病室を出た。









20081101









クロタネソウの花言葉:「とまどい」「困惑」「ひそかな喜び」
英名は「ラブ イン ア ミスト(霧の中の恋人)」
見つけたときこれだああああと思いました。
出典花言葉事典