蚊帳の外、やわらかい月

サマーウォーズ健二←佳主馬(女)。女体化ですちゅうい!


















女の子だと気づいたのはキング・カズマがラブマシーンに取り込まれて、悔しがって泣いてる姿があんまりにも痛々しく思えてたまらず抱き寄せたときだった。
男の友情のつもりで肩と背中を叩いて励まして、それでまた一緒に頑張ろうって言うつもりだったのに腕の中にすっぽりとおさまってしまう身体は鍛え抜かれているはずなのに小さくてふわふわしているような気がして、さらさらとした黒髪からはふんわり野の花のようなやさしく甘い香りがしていて僕の鼻孔をくすぐった。
何より中学生相手に変態めいた感想を持った次の瞬間、身を固くした彼、いや彼女が浅黒い肌でもわかるくらい真っ赤になって僕を突き飛ばしたから考えるより早く理解してしまった。

「佳主馬くん?いやちゃん?」

尻もちをついたまま目を泳がせながら言うのがやっとだっただって女の子だなんて微塵も思っていなかったのに。

「ちゃん付けで呼ぶな!」

それなのにいつも通りきっぱりという彼女が男の子に見えるなんて、気づいてしまえばどうやってもできなかった。
夏希先輩のように女の子そのもののような雰囲気もないし格好もタンクトップにハーフパンツだしそもそも少林寺拳法なんてやっているからふにゃふにゃの僕なんかより筋肉質でスレンダーでキング・カズマなんて名前のアバターがOZマーシャルアーツの世界チャンピオンだなんて半端ではない肩書きを持っているから男のはしくれみたいな僕よりずっとすごいやつなのに、佳主馬なんて名前なのに、抱き寄せられたくらいで真っ赤になってしまう様はかわいい女の子だったから。

「え、だって名前、佳主馬って」

「男の子の名前しか考えてなかったからって」

眉根を寄せて拗ねたように言う様はやっぱりかわいい。
膝を抱えた脛の後ろにちらりと太腿が見えて心臓の鼓動が大きくなるなんてやっぱり僕は変態かもしれない。
夏希先輩に感じるのとは違うどきどきがなんなのか、その後すぐに新しいラブマシーンの対策について考え始めることになったから思いを巡らす暇はなかった。
栄おばあちゃんのお葬式が終わった後も一緒に食卓を囲む機会はあったけれどそれ以降なんとなく気まずくなって、というかあの箱型の物置みたいな部屋に、女の子と二人きりの狭い部屋に遠慮なくどうやって自分が入っていたのか思い出せなくなって二人だけで会話できなくなってしまった。
白に灰色に近い水色の襟と赤いリボン、襟と同じ色のプリーツスカートのセーラー服を着た池沢佳主馬はやっぱり女の子で、長めのスカートからは膝頭すら見えなくてただ風になびくそれが青々と茂った草と一緒に目に焼きついて離れない。
夏希先輩の白いワンピース姿が何より綺麗だと思っていたのに。
僕の夏休みの陣内家での生活はその瞼の裏の景色と一緒に終わってしまった。
















それから連絡が途絶えるかと思っていたけれどそんなことはなかった。
OZというのは、というかネットの世界というのは本当に便利だ。
パソコン越しならば面と向かってではないし、何の匂いもしないしそもそもアバター相手だからか緊張も気まずさもなくて僕のアバターとキング・カズマの交流はゆるゆると続いていた。
あの一件から一気にヒーローになったキング・カズマはもともと半端ではない人気者だったけれどさらにOZ界の伝説みたいになっていてそのヒーローと交流があるというくすぐったいような喜びもあったんだと思う。
それにたまに、稀だけれども言動から彼女を、あの真っ赤になっていた女の子を連想することがあってそれにいちいち反応してしまう僕も僕だけど顔が熱くなるのを抑えられない。
高校生でそんなに年は離れていないにしても中学生相手にこれは何と言う気持ちなのだろうと誰に相談することもできなくて、妹がいたらこんな感じなのだろうかと考えたけれど妹がいない僕に結局答えを見つけることはできなかった。
夏希先輩とはあの夏のアルバイト以来仲良くなってたまにお茶をしたりどこか行ったりするけれど付き合っているとは多分違うのだろう。
綺麗でかわいくてちょっと小悪魔めいている先輩に会うとやっぱりかわいいと頭がぼうっとなるしその一日のことを考えるとにやにやしてしまう。
でも不思議と手をつないだり抱きしめたこともなくてもちろんキスもしていない。
たまに遠くを見るような視線はやっぱり侘助さんのことを想っているのだと知っていたし僕に振り向いて欲しいと躍起になったりすることもなくて、高嶺の花の意味を理解し始めていた頃だった「大学生になったらアメリカへ留学しようと思うの」と先輩が真剣な声で言って僕は「夏希先輩ならきっとやっていけますよ」と笑顔で、本当に自然な笑顔で答えた。
おばあちゃんに言われたことは守れないかもしれないなとなんとなく思いながら。
けれど僕と夏希先輩が婚約者のようなものではなくなっても陣内家の集まりには何度か呼ばれている。
栄おばあちゃんに顔を見せに行きたいというのもあったしあの温かい親戚同士の集まりがとても心地よかったのだ。
二回目に行った時にはあの男の子のような女の子はいなくて意気込んでいたのに肩すかしを食らい、三回目に会ってちょっとだけ女らしくなっていたことに気付いて動揺したけれど面と向かってでもたまに話をするようになって僕たちの気まずい、もしかしたら僕が勝手に気まずいと思っていた関係は修復された。
今ではキング・カズマにぼこぼこにされたり本人に少林寺の練習と称して同じようにぼこぼこにされて全身痣だらけで筋肉痛になったり数学のみだけれど中学の勉強を教えたりもしている。
陣内家の人たちが家族の一員みたいに接してくれるものだからその訪問も三年目、夏希先輩が留学する前の壮行会という名目で集まったとき、僕は受験を終えて大学一年生になり、彼女、池沢佳主馬は中学三年生になっていた。
受験もスポーツのように練習すればできるようになると言ってみせた彼女は男の僕よりずっと潔く一生懸命勉強し、休憩時間には少林寺の型を復習して汗を流し、そしてまた勉強と感心するくらいの生活を送っていて得意の数学だけで受ける大学を決めた僕とは違うみたいだ。
もうすでにヒーローの座についている彼女は将来何になりたいのか、まだ訊いたことはない。
明日訊いてみようかなと目を閉じたのと身体にやわらかな重さを感じたのはほとんど同時だった。

「へえっ!?」

「大きな声ださないで。みんなが起きる」

僕の目が正しければ映っているのはさっきまで思い浮かべていた男前の彼女が気付いたら布団にタオルケットをかけただけのお腹の上に乗っている光景だ。
天井は蚊帳のせいか暗い緑色に見えたけれど開け放たれた窓からもうすぐ満月になる月の光が明るいから乗っているのはいつも遊べ遊べと言ってくる小さな怪獣たちではないしなによりその怪獣たちはとっくに寝静まって起きだすまでには時間のある真夜中のはずだ。
眠ったばかり、というか今まさに眠ろうとして目を閉じたすぐ後の出来事だから夢というわけでもないだろう。
見下ろす姿もまた男前で似合ってるなあとかそうじゃなくて。

「え、えと。どうしたの」

「見てわからない?夜這いなんだけど」

「は」

よばいって何だろうと僕の真っ白になった脳はぐるぐる同じところを回りながら考えているけれど口の方は反射的になんでと動いていた。

「なんでもいいだろ。お兄さんは黙ってればいいの」

すらりと寝巻替わりなのか肌触りの良さそうな黒のTシャツを脱いだその下は裸だった。
いつもタンクトップを着ているからなのか日焼けの線がくっきりとした普段さらされることのない部分はもともと色素が濃いのか小麦色をしていて、鍛えられているために無駄のない裸体はひとつの芸術品のように美しい。
そうであるのにささやかだけれどやわらかそうに盛り上がった二つのふくらみは彼女が間違いなく女である主張でそのアンバランスさもあってか月明かりの中のその姿はひどく色っぽかった。
気づけば口を開けて見入っていてそれからはっとして僕は顔を逸らす。

「なななな、なにを!い、いきなり。服着て!」

「なんだ。見たことないの」

慌てて頭に血が昇っている僕に対して彼女は冷静そのものでまるでお菓子か何かを食べたことないのと訊くみたいななんでもない声をしている。

「当たり前だよ。僕そういう、女の人と付き合ったことなんて」

「夏希ねえは?」

「先輩とはそういうんじゃないんだ。なんというか」

「フィアンセ」

「違うよ!それに侘助さんが」

「でもお兄さんがすきなのは夏希ねえなんでしょ。今でもたまに追いかけるみたいにして見てる」

言いながら上半身裸の彼女は僕の手をとってそれを何かやわらかいものに押しつけた。
その位置や感触から何を触らせているのかわかる。
しっとりとした肌は吸いつくようで掌に納まるほどの彼女のふくらみは張りがあるのにやわらかな正直男の性からすればたまらない感触で、思わず握ってしまわなかったのが不思議なくらいだったけれど、慌てて半分起き上がるようにして離そうとする。
力の強い彼女からすれば意外なほどあっさりと僕を掴んでいたものは手首から抜けて行った。

「女の子がこんなことを」

「最初は気付いてなかったくせに」

「それは」

いじけたような声に思わず振り向いてしまってまた顔を逸らす。
正直豊満なわけでも女らしいわけでもないのにその身体が脳裏にちらちらとして頭が痺れるようだ。
掌の感覚もまだ消えてはいない。

「まだなら僕を代わりにしていいよ。なにするかわかってるから」

また衣擦れの音がしてもしかして下も脱いでしまったのではないだろうかと思うが、というか間違いなくそうなのだろうけれど怖くて確認できない。
そして確認するまでもなく視界の端にばさりとズボンが落ちるのが見えて白い布みたいなものもちらっと映った気がする。

「だれか来たら」

「ここみんなの部屋からもトイレからも離れてるから聞こえないよ。夜中に誰か来たことなんてないでしょ」

そっと囁くような声と一緒に今度は身体ごと寄せられる。
いつのまにこんなに色気のある声が出せるようになっていたのだろう、多くて年に二、三回しか会わない僕にはわからなかった。

「中学生だろ。そういうのは、女の子は大事にしないと」

「大事にしてる。健二じゃなきゃいや。すき」

ストレートな彼女らしい、熱烈と言ってもいいような告白だった。
そしてお兄さん、ではなく初めて呼ばれる僕自身の名前がひどく特別なもののように感じられる。
だから夏希ねえの代わりでもいいからして、という切羽詰まったような言葉に思わず以前より更に体格差の開いてしまった身体を抱きしめた。
裸体は見えなくなったけれど抱きしめた彼女からは、あの頃と似た、けれどちょっと色を増したような香りがして僕の心臓が早鐘を打つ。
覚えているなんてと変態の二文字が久々に頭をよぎる。

「だめだよ。代わりになんかできない。それにね」

夏希先輩とは付き合ってもいないし、僕は多分もう先輩に恋もしてないよ、確かに憧れではあるけどと付け加えた。
腕の中の身体がぴくんと反応するのが直に伝わってくる。

「な、じゃあなんで、ここにくるのさ」

「おばあちゃんに顔見せに来たいし。それにみんなにも佳主馬にも会えるだろ」

「だめ。呼び捨てにしないで」

「佳主馬ちゃん?」

「ちゃん付けはもっとだめ」

ゆるく首を振る彼女がかわいくて苦笑するとどうやら気に入らなったようで脇腹をぎゅっとつねられる。

「なんでこんなことしようと思ったの」

「だって、夏希ねえが留学するから」

もう会えないと思ったと言うときには少し泣き声が混じっていた。
会えなくなるし好かれてもいないのなら女にしてくれるのはお兄さんがよかったと言う意味のことをぼそぼそ言っているからそんな風に追い詰めてしまっただろうかと悪いことをしてしまったような気持ちになる。
ぽんぽんをあやすように頭を軽く叩くと子供扱いしないでと不満気に拒否されてしまった。

「そんなふうに自分の身体をつかったらだめだよ」

「お兄さんのくせに。大人ぶって」

「お兄さんだからね。それに一応もう大人なんだけど」

健二と甘い響きで呼んでくれるのはどうやら特別なときだけらしい。 それを心待ちにするようなできればずっと呼んでくれればと思うような欲が首をもたげたけれど気持ちを返せていない身でそれは贅沢というものなのだろう。

「僕より弱いくせに」

「ごもっともで」

「子ども相手に勃ってるくせに」

気付かれていた。
二十歳を迎えている僕が裸の中学生を抱きしめてしかも男として反応しているなんて翔太にいに知れたらまた逮捕されても文句は言えない。
とりあえず曖昧にごまかすという大人の常套手段をまだ上手く使いきれない僕は服を着るよう必死で彼女に勧めるという選択肢を選んだ。
このまま抱き合っていれば本当に何をするかわからない。

「しなくていいの」

「いいの。今したらほんとに、代わりみたいだろ」

そう言ったらやっとTシャツを着て向き合えるようになった彼女の目が大きく見開かれて、瞳の端に溜まっていた涙がぼろりとひとつ頬に筋を作った。
泣くのを見たのは二度目だ。

「もっとすきな人に言うみたいに言って」

僕の言動に誠実さと対等を求める彼女が度々出す訂正は今回ばかりはかわいらしいお願いで、まあはっきりしない僕が悪いのだけれど。

「僕は佳主馬が大事だから今日は手を繋いで寝よう」

「意気地なし」

「ごめん」

「あやまらないで」

そう言って彼女は僕の手を取ってころりと横に寝転がった。
一人用の布団は狭いからできるだけゆったり眠れるようスペースを空けたつもりがその分距離を詰められて身動きがとれなくなってしまう。
繋いだ掌と、やっぱり恥ずかしくて顔が熱い。

「ほんとにしなくていいの」

純粋に、どこか気遣うように見上げてくる視線がさっきにも増して愛らしく見えているのは告白されたからか、それとも彼女の顔にかかっているぼんやりとした月明かりのせいだろうか。

「しなくていいの」

今度一緒にどこか行こうかと言うと受験生だから終わってからねと断られてしまった。







「やっぱりおっぱいくらい揉ませてあげるよ?」

「だから大丈夫だって」

おさまるものもおさまらなくなってしまうと考えた僕はもう彼女のことを妹だなんて思えなくなっていた。 いや、前から妹だなんて思っていなかったじゃないか。















目が覚めて怪獣たちが起こしに来るころにはもう布団に僕一人だけが寝ていた。 けれど握ったまま眠ってしまったせいで固くなってところどころ痛くなっている掌が、夢ではなかったことを教えてくれている。









佳主馬ちゃん萌えの勢いのまま書いてしまった。チカシゲこと萌えをくれた君へ。佳主馬くんが「お兄さん」呼びだったことを思い出してちょっと訂正。


20090823