片想い

注意!:骸→ツナ、山←ヒバ前提ですが、骸×雲雀要素があります。あとちょっとエグイ話もしています。苦手な方はお戻りください。




















届いたメールで何度もマンションの名前と部屋番号を確認して、綱吉はおそるおそるインターホンを押した。
聞こえた彼の声に安心して来たことを告げると了承の言葉とともにガラスの扉がすべるように開いて、特に何があるわけでもないのにきょろきょろしながらエレベータに乗り込む。
他の住人が乗り込んでくることなくまっすぐ目的の階に着くことができたが、降りるときにもやはりおっかなびっくりになってしまい、ずらりならんだ扉から目的の数字列を見つけ出すために視線を動かすだけで鼓動が高鳴るような気がした。

「ちゃんと来られましたね。寒かったでしょう、お茶淹れますから座っていてください」

案内されたのは豪華なマンションに対して意外にも小さな部屋で、身構えていた綱吉はちいさく息を吐いてダイニングらしき場所にある椅子に座る。
洗面所やトイレとは別にもう一つ部屋があるようなので、いわゆる1DKというやつだろう。
学生の独り暮らしにしては豪華な様子に彼の家がお金持ちだという噂はどうやら本当らしいと勝手に納得する綱吉だった。
かちゃかちゃと食器をいじる後姿を見るとやはり部屋だからかいつもの凝った服装ではなく長袖シャツにパンツというラフなもので、背中に届きそうなほど伸ばされた髪が先の方だけ揺れている。

「紅茶でいいですか」

「うん」

コーヒーは未だに苦手だから助かった。
そういえば彼も甘党だったような気がする。
友達何人かでお茶をしにいったときにチョコバナナのワッフルを美味しそうにほおばっていたのは記憶に新しい。
ちなみに女の子には可愛い可愛いと好評で、顔が良ければなんでも許される人間を前にして同席した男どもは嫉妬の念を禁じえなかった。

「はい」

マグカップで湯気を立てるのはミルクティーで、遅れて甘い香りが鼻に届き、寒さでこわばっていた頬が緩むのを感じる。
彼、六道骸は飲みたかったので勝手にミルクティーにしちゃいました、甘いもの平気ですよねと言いながらテーブルを挟んで綱吉の前に座った。
頷いた綱吉に微笑む彼は心なしか気だるげで、もしかしたらついさっき起きたのかもしれない。
時刻は午前10時15分。
大学生の休日ならまだ寝ていても許される時間帯だった。

「ちょっとは考えて来ました?」

「いや、あの。はは」

「そんなことだろうと思いました」

言葉と共に呆れたようにして彼はテーブルの上に紙束を散らす。
今日綱吉が訪ねてきた理由は簡単で、出された授業の課題を彼と一緒にやるためだった。
大学でのグループワークというのは得てして進まない。
一生懸命やる者がいるかと思えばそれに任せきりで連絡すら取れなくなってしまう者もいて、綱吉たちの班にも4人だったはずなのだが一人は運動系サークルの大会で、もう一人はメールを何件送っても返信がないという状態だった。
各自に割り振られた仕事は終わっていたのだが発表用の原稿を作るのはどう考えても二人になりそうで、だから綱吉から声を掛けたのだがそしたらウチでやりましょうなんて驚くべきことを言われて今に至るわけである。
理由を聞いたら「図書館って息苦しい感じが好きになれなくて。ファーストフード店やファミレスもうるさいですし」ということらしい。
確かに綱吉も図書館なんて調べ物がない限り行きたくはないし、休日のファミレスで集中できるとも思えなかったからこの選択は正解だったのかもしれなかった。

「まあだいたいできてはいますから、あとは定義と仮説を考えて構成を決めるってとこですかね」

「それが難しいんだけど」

早速うなだれた綱吉にまた骸が笑う。
始めますよと促されてようよう顔を上げたところで背後の扉が開く音が聞こえた。
彼は驚いたように色違いの目を見開いている。

「もう起きたんですか」

綱吉が振り返ると薄暗い部屋の中から髪の毛も瞳も着ているスウェットも何もかも真っ黒な人物が出てきた。
対して肌は透き通るように白く、吊り気味の目の辺りだけが少し赤い。
服装や髪の毛があちこちにはねていることから明らかに寝起きのようで、それを裏付けるかのように彼は欠伸をひとつ。
骸と綱吉を眺めてにや、と口の端を吊り上げた。
男に使う形容ではないのかもしれないが、その笑みからそこはかとない色香を感じで綱吉はなぜだか息を呑んだ。

「僕は木の葉が落ちる音でも目が覚めるんだよ。それより、それが君のオトモダチ?」

そう尋ねられると骸は少々苦い顔をして、沢田綱吉君ですよと一応紹介のような言葉を口にする。
じろじろ値踏みされるような視線に変わりもしないのに思わず身を引いてしまう。

「へえ。理解できないな」

「あなたに言われたくありません」

骸らしからぬぞんざいで機嫌を損ねたような口調だ。
対して真っ黒い人物はすぐに興味を失ったようにまた欠伸をしてシャワー借りるからと洗面所の方に姿を消した。

「えと、友達?泊まってたの?」

なんとなく気まずさを感じて質問する。
息苦しさを考えなければ男友達が家に泊まることなんか珍しいことでもなんでもない。
綱吉だって友達に泊めてもらうことはしょっちゅうだ。

「そんなとこです。いつもふらっと来て勝手ばかりするんですよ。今日もお客が来るとは言ってあったのですが聞いてくれなくて。雲雀恭弥ってご存知じゃないですか?」

骸は気を取り直したように印刷された文章やグラフになにやら書き加えながら、綱吉にとっては信じられないことをさらりと言った。

「雲雀恭弥って、あの!?」

雲雀恭弥といえば綱吉の大学でも有名人だった。
確か学部生のうちに留学して博士号を取ったとか、その割には先輩でも誰でも所かまわず殴る大変暴力的で困った人物だとか。
常識では考えられない噂だけが一人歩きをして本人を目にしたことはなかったので、大学七不思議か何かのひとつだと勝手に思っていた。

「本当にいたんだ」

「まあ知られている割には全く授業とか出ませんからねえ彼は」

なんだか珍獣を目にしたかのような綱吉の反応にも骸は特に驚いていない。
多分彼と初めて会ったら大体皆同じように返すのだろう。

「仲良いの?」

恐る恐る、という風に視線を投げると骸は一瞬で眉根を寄せてまさかと吐き捨てた。

「腐れ縁ですよ。本当を言うとできるだけ関わりたくない。雲雀も同じでしょう」

仲が良いゆえの憎まれ口にしても随分ひどい。
それに骸は綱吉の記憶にある限りとっつきにくい印象はあるが話しかければ誰にでも物腰柔らかで丁寧だったので、やけに冷たく感じる。

「沢田?手が止まっていますよ」

「あ、ごめん」

止まっていると言われても綱吉の脳はさっきから課題に関して全くといっていいほど向かっていない。
骸の家の奇妙な客人とそれに対する彼の態度が気になって仕方がなかったのだ。
放っておけばいいことを分かってはいても、こういうのを野次馬というのだろうか、頭の中がやたらともやもやしてまともに物が考えられないでいる。
その様子に気付いているのかいないのか骸はまた何か書き始めた。
綱吉も慌てて手近にあったプリントに目を落とすが文字を追っても内容は頭に入ってこないので、それらしい顔をするだけになってしまう。

「六道、食べるものないの」

カラスの行水とまではいかないがあっという間にシャワーから戻った雲雀は綱吉が顔を上げたときには冷蔵庫のなかを覗き込んでいた。
服装はスウェットからワイシャツとジーンズに変わっただけでやはり真っ黒だ。
髪はまだ湿っており青いタオルが首からかかっている。
どうやらしょっちゅう来て勝手にやっているというのは事実らしい。

「食パンならそこにあるじゃないですか」

「僕はパンは食べない」

傍若無人そのものの台詞を吐く雲雀に骸は疲れたように長い溜息をつくとちょっと待ってなさいと言って立ち上がる。
綱吉にすみません進めていてくださいと言うのも忘れなかったが、状況についていけない綱吉の方はただ呆けて首を縦に振るしかなく、斜め前に雲雀が座ったのにもしばらく気がつかない始末だった。
驚いて視線を左右にさまよわせると先ほどと同じように楽しそうな表情を向けられる。
助けを求めるように骸を見るが、冷凍していたらしいご飯をレンジに入れ、何か作るのか冷蔵庫から葱を取り出していた。
外見や暮らしぶりに似合わず意外に家庭的なのかもしれないとか変な感想を抱いている場合ではなく、葱を切り始めた骸から当然ながら綱吉は見えないから結局そのぶしつけな視線に応えるしかなくなってしまう。

「君、今日はどうして来たの」

何気ない質問なのにこの雲雀という人にはどうにも説明できない威圧感があるような気がしてまるで尋問のようだ。
課題がどうのということをなんとか説明すると更にそれだけなのと言い重ねられた。

「それだけって」

それ以外に何かあっただろうか。
骸は確かに友達ではあるがサークルが同じで幾つか授業が被っているだけでとびきり仲が良いというわけでもないし、今日だって課題が終われば長居せずに帰るつもりでいた。
一度だけ酔った勢いでべたべたした記憶があるような気がするが、少し距離が縮まった程度でわざわざ初対面の人間に話して聞かせる話でもない。
わからないというふうに首を傾げる綱吉に雲雀はくくと喉の奥で笑う。

「本当にただのオトモダチなんだね」

「雲雀、沢田をからかうのは止めてください」

何か含みのあるらしい言葉だというのに言われている綱吉には全く理解できず、逆に骸はそれがどういう意味なのかを知っているらしかった。
振り向きはしないが語気が荒く、有無を言わせない響きを感じる。

「どっちかというと僕は六道をからかってるんだけどね。だって」

ふふ、とまた笑う。
今度こそ本気で気を悪くしたらしい骸は雲雀の前に先ほど温めたご飯の盛られた茶碗を大きな音を立てて置いた。
いつの間に作ったのかおそらく味噌汁らしいお椀と卵焼きの乗った皿も登場する。

「人のことが言えるんですか。君が」

「うるさいな。インスタントに冷凍ご飯なんていい度胸してるよね」

「文句を言わない。それ食べたらさっさと帰ってくださいね」

喧嘩になりそうなほどのぴりりとした空気が二人の間を流れる。
綱吉がおろおろしているとそれに気が付いたのか骸がふっといつもの笑みの形に表情を戻し、すみません待たせましたねと言ってから座った。

「これは気にしなくていいです。続きやりましょうか」

「え。あ、うん」

あまりの態度の違いに戸惑うが、口外に何も言うなと言われた気がして、ここが分からないんだけどとありもしない疑問を口にした。
横目で窺うと雲雀はきちんと手を合わせて食べ始めている。
改めて見るとぴんとした背筋や前髪が掛かっていても長いと分かる睫毛、きちんと整えられた爪から正しく箸を持つ指もなにもかもが整っていて男の人なのに綺麗だなと初対面のときに続けて妙な感想を持った。
それから骸に視線を戻すと長い指先が文字をなぞっている。

(そういえば六道君を初めて見たときはあんまり格好良いから口開けたまま固まったんだっけ)

雲雀とは違い、骸はそれこそ恣意的に作られた人形のような美しさなのだ。
髪型は変わっているが、顔には左右色の違う瞳やそれぞれ作りこまれたかのようなパーツが絶妙に配置され、スタイルだって抜群で脚なんかは綱吉と比べるまでもなく長い。
自信が打ち砕かれたというよりもあまりのことに見とれてしまって声を掛けられるまでぼうっとしていたのを良く覚えている。
しばらくしてそれを本人に言ったらそれじゃあ君なんだか一目惚れした女の子みたいですよと笑われて、自分の反応が変わっていてなおかつ随分恥ずかしいことに気が付いた。
事故というか、罰ゲームめいたものでその美貌が目前に迫ったときもやたらとどぎまぎした。
これでは本当に惚れているみたいだ。
プリントに視線を落とした骸の長い睫毛を、綱吉は見るともなしに眺めてそんなことを考えていた。

「ごちそうさま」

ああだこうだと二人が話し合っているうちに食べ終えたらしく雲雀はまたきちんと両手を合わせた。
お粗末さまでしたと言って食器を片付けたのも骸で、それを当然のように享受する雲雀に綱吉は二人の関係性をなんとなく悟ったような気になる。
どう言っていてもはっきりと役割が分かれるほど長く付き合っているんだから関わりたくないというのは本心ではないに違いない。

「じゃあ帰るよ。邪魔したね」

本当に帰る気らしく、雲雀は一旦奥の部屋から荷物を取ってきてあっさりと挨拶をした。
先ほどの艶めいた笑いから一転した無表情で、綱吉のことも一瞥するに留めた。
結局さっきの「からかい」の真意が分かることもなく、どうしてか二度とその話は彼とはしないように思える。
玄関はダイニングからすぐで、綱吉の位置からは良く見えたが見送りに出た骸の背中と、一段低いところに降りたせいで雲雀のことは見えない。

「また来るよ」

「なんですか。いつもは予告もなしに来るでしょう」

「次は来週の土曜ね」

「雲雀?」

ややくぐもっているが会話は聞き取ることができた。
さらりと言う雲雀に対して骸は戸惑っているようだった。
わざわざ約束するのが珍しいのか、それとも他の理由があるのかは綱吉にはわからない。
しかし次の瞬間二人が何をしたのかははっきりと見てしまった。

「っんぅ!?」

骸の頭がくんと引っ張られるように動いたかと思うと今まで見えなかった雲雀の耳や顔の横で跳ねた髪の毛が骸の青みがかった髪越しに覗いた。
箸を正しく持っていたあの白い指が骸の一部分だけ伸ばされた髪の下に入り込んで項を撫でている。
もう片方は腰をさわさわと動く。
骸の掌は半ば開かれた形で固まっていたが、見ようによっては雲雀の身体を抱くべきかどうか迷っているようだった。
微かな水音すら拾ったような気がして綱吉は頭が沸騰するような錯覚に陥ったまま、それでも目を逸らせずに男同士の濃厚なキスシーンを凝視した。
何故だか見せ付けられている、と強く思った。
それを証明するかのように唇を離してから雲雀は骸の首筋に噛み付き、その吊り気味の目でもって射抜くように綱吉を見る。
三日月を模ったそれは確かに笑っていた。

「なにを、雲雀」

「いつもしてることじゃない」

雲雀を引き剥がした骸は、戸惑ったように2、3歩後ずさってやや掠れた声で言った。
首筋には点々と血がにじみ、相当な力で噛まれたのが分かる。
雲雀さんって本当に凶暴なんだなとかまともな思考を放棄した綱吉の頭は妙な納得だけをしていた。

「それに気になっていたみたいだからね。教えてあげれば良いのに。僕たちは好き合ってもいないのに男同士で夜な夜ないやらしいことをしているセックスフレンドですって」

「やめろ。なんだって、沢田に言う必要が」

ぎゅっと握られた骸の拳が壁を叩く。
そんなに強い力ではなかったのかミシ、と軋むようにわずかな音がしただけだった。

「分かりきったことを訊くんだね。それともちゃんと全部言った方がいいの」

雲雀の言葉にこらえるように俯いた骸はもういい帰れとだけ力なく呟いた。
言われなくてもと返した雲雀はドアのチェーンを外し、鍵を開けて部屋を出て行く。
見えなくなる直前、彼は綱吉を見たような気がした。
挑戦的でも艶めいてもなく、無表情から口元を吊り上げただけの笑顔とも言えない微笑みは不器用だったが、今までで一番雲雀そのもののように思えた。
重そうな扉がゆっくりと閉まると骸はほとんど反射のように鍵を掛け、そのまま壁に寄りかかるとしばらく動かなかった。

「あの、六道君」

何と言葉をかけていいか分からないまま呼びかけた綱吉の声は無様にひっくり返ってしまう。
完全なる失敗だ。

「気持ちが悪いものを見せましたね」

「え。いや、あの」

「いいですよ。雲雀が言ったことも事実です。まったく、黙って帰ればいいものを」

取り繕うことにも失敗した綱吉は今度こそ途方に暮れて、噛み跡を気にするように触る骸の背中を見るしかなかった。
やがて洗ってきますと言って彼は洗面所へ消えてしまう。
すばやく踵を返されたせいで表情を窺う隙すらなかった。
時刻は昼に近くなってきている。
予定では早ければ昼ご飯を前にして帰れる算段だったが、目の前に広がる紙束よりもずっと深刻な問題が現れたような気分になった。
かたんという音に顔を上げると、首に近い肩の所をガーゼのようなもので押さえた骸が困ったように笑って座るところだった。

「そんなに暗い顔をされるとちょっと堪えるんですけど。軽蔑しました?」

「まさか」

確かに同性同士のそういう場面は随分衝撃的だったが、不思議と気持ち悪いとも思わなかったし生理的な嫌悪もなかった。
ただ、二人の関係は男女でも多少問題になるようなものではなかったか。

「でも、あの、せ、セフレって」

「ええ」

「すきでもないのに」

恋人同士というのならなんとか受け入れることもできただろうが、綱吉には恋愛感情もないのにそういうことをするというのは想像しがたかった。
処理をするだけならば他にいくらでも方法があるように思われるし、それだって綱吉には良心に咎めるような気がするのに。
そういう意味を込めて骸を見ると、一瞬何かをこらえるように下唇を噛み締めた。
泣き出しそうに歪んだ表情は、まるで綱吉に断罪されたかのようで見ていられず咄嗟に口を開いてしまう。

「あ、ごめん。六道君の事情なのに。俺、首突っ込むようなこと言って」

顔の前で手をひらひら動かして言いたくないなら言わなくてもいいからと付け加えて思いっきり笑った。
上手くいったかどうかまったく自信がない。
けれど骸はふと寄せていた眉根を緩めると小さな声で何か言った。

「え、なに」

「好きな人がいるんです」

「僕にも、雲雀にも」

手に持ったボールペンを複雑なかたちで回しながら彼はぽつぽつと語り始めた。
何を思ってのことなのか綱吉には頭が追いつかなかったが、冷えたミルクティーを一口飲んでから黙って耳を傾けることにした。

「別にゲイのつもりもなかったしそれなりに今まで女性の恋人がいました。まあ向こうのことは知りませんが不自由している様子はありませんでしたね。でも、本気で好きになった相手がどうしてか二人とも男だったんですよ。雲雀の方を先に僕が気付いたんですが、あの時は殺されかけましたね」

棘付のトンファーってどういうことですかとそこで少し笑って、彼はペンを回す指をぴたりと止める。

「僕もだと言ったら思いっきり顔をしかめられてその隙に逃げましたが、いつですかねえ。たまたま、本当にたまたま二人で呑んだときに、慰め合った、と言えば綺麗なのか。いや、あれはそんな暖かいものではありませんでした。僕らはお互いを想い人の代わりにしたんです。目を閉じて別の人の名前を呼んだ。酔っていたからできたことです。正気の沙汰じゃない」

「今はベッドの中じゃ一言だって口にしない。他のことを考えないと嫌で仕方がない。でもそうしないとまともでいられなくなった。ひどい関係です」

骸が話し終えても綱吉は口を開いたり閉じたりを繰り返すだけで何も言うことができない。
どうしたらいいのか、止めればいいといって終わる関係なら綱吉よりはるかに優秀な頭を持っているらしい二人だ、とっくに離れているだろう。
金魚のような運動をする綱吉を尻目にお茶が冷えましたね、新しいの淹れますよと骸が立ち上がった。
小さな鍋を取り出して、紅茶の準備をする彼の背中は来たばかりのときと変わらないのに蹴りつけたいような抱きしめたいような焦燥にかられてしまう。
シャツの隙間から赤い跡がちらちらと見える。

「告白、しないの」

小さく掛けた言葉でもちゃんと届いたらしく、彼はゆっくりと振り向いた。

「君なら、できますか」

「え」

「相手が同性を、自分を、恋愛対象としてみていないのが分かっていて。大事に育ててきた友人の立場を捨てて。ニ度と目も合わせてくれない、それどころか気味悪がられるかも知れないのに。普通に女性が好きだったからこそ分かります。僕だって逆の立場ならそのまま友達でいるなんてできない」

彼の口調は綱吉がこの部屋を訪ねて聞いたどれよりも硬かった。
下手に慰めるより何より言ってはいけないことを言ってしまったのだと気が付いてももう遅い。
骸はすでに沸騰して踊る鍋の中の茶葉を見ていた。

「あの、ごめん。俺、でも」

「でも?」

「そういうのって、六道君にも雲雀さんにも良くないよ。そんなんじゃ、いつまでたっても」

いつまでたっても幸せになれない。
続けなくても聡い彼には分かったらしかった。
二つのカップに紅茶を分けていた背中がぴくりと揺れる。

「じゃあ、沢田が協力してくれますか」

背中を向けられたままの言葉はさっきの硬さもなかったがその真意も掴めなかった。
聞き返すと振り向いてカップを差し出されて微笑まれる。
驚くほどにいつもの六道骸だ。

「来週の土曜日、一緒に遊びましょう。買い物行って、ご飯食べて呑んだらカラオケでオールして」

「え?は」

「雲雀は土曜日に来ると言いました。あれで律儀な奴ですから言ったことを変えたりしません。でも僕がいなければ帰るでしょう。だから沢田は僕が寂しくないように一緒に遊んでください」

いつからそんな話になったのだろうか。
綱吉が混乱していると骸は更に言い含めるように続けた。

「きっかけを作ろうとするなら責任を取ってください。嫌ならもうこのことには口を出すな」

一瞬だが冷えた目で睨まれる。
蛇に睨まれた蛙よろしく固まった綱吉はカップを受け取ると同時にかくかくと何度も頷いた。

(あれ、六道君ってこんな性格だった?)

けれど交わされたこの奇妙な約束を守って、そして二人の恋が良い方にいけば良いなどと綱吉はどこまでも都合の良い思考をする。
彼らの想い人が誰かとか、どうして雲雀にオトモダチだの何だの言われたのか深く考えることもせずに。
呆けたまま紅茶を飲んだらおもいっきり舌を火傷してしまい、今度は盛大に噴出されてしまった。


















これってどうなの。受け入れてもらえるのかしら。とりあえず妄想したら止まりませんでしたすみませんでしたああああ。 もうちょっと軽い話にするつもりだったのに。続き書くとしたら多分次はくっつくまでのあれこれとかそんなんです。



20081115