きこえる声、とどいたもの
「うん。そう、え。雪?ああ、昨日降ったよ。少しだけど」
「何。どうしたの。いつもすぐ切るのに、いいよ。高いでしょ」
「さっきから笑ってるよね。わかるよ」
「二人はね、この前実家帰ったときに一馬と会ったかな。うん、なんか大人になっててさ。一馬なのにね。結人は今彼女で忙しいみたい」
「さあ、あ、この前揉めてたのは結局二人とも駄目だったって。馬鹿だよね。二股とサッカーと。頑張る所間違ってるっていつも言うんだけど」
「前ほど電話はしないよ。気持ち悪いでしょ、男同士で。結人が変な写メ送ってきて鬱陶しい。結構ぶれてて何なのか訊くんだけど返ってこなくて」
「そういえばこの前映ってた人どうなったの。は。友達にとられた?珍しい」
「ふ、何それ。駄目じゃない。続かないよね。面倒臭がるから」
「え。俺は」
「ちょっと待ってチャイム鳴った。聞こえた?」
「ごめんね。はいはい。誰だよこんな時間に」
「え」
「「「ハッピーバースデー、英士(ヨンサ)!!!!」」」
すっかり忘れていた誕生日の瞬間に祝ってくれたのは、小さな頃と変わらない二人の親友と一人の従兄だった。
「うははすっげえ!!英士が固まってるぜ!!なんて貴重な瞬間だ!!はい、チーズ!!」
携帯のカメラの間抜けなシャッター音が響いてもなぜか我に返ることができない。
目の前の軽薄そうな男と、受話器からけたけたと笑う声がする。
唯一爆笑していないけれどやっぱり笑っているツリ目の男、というか一馬がずい、とおそらくケーキが入っているであろう袋を差し出したところでやっと「なんで」と言うことができた。
「なんでとはなんだよー!遠方からこの結人サマが来てやったってーのに冷たいんじゃねえ?ってかさみいよ一馬さっさと閉めろ!」
「いや。結人というより一馬でしょ。何してんの」
『わー!!ヨンサ冷たい!!一馬がねー丁度オフだって言うからねー三人でお祝いすることにしたんだよ!』
「あ、ユンか。そう。昨日結人んち泊まった」
説明を受けながら英士がケーキを受け取ったところで二人は了解も得ずにどかどかと上がりこんでしまった。
乱雑に脱ぎ捨てられたカラフルなスニーカーと綺麗に揃えられた黒いブーツを見ながら、英士はお礼言い忘れたな、とぼんやり考えて、習慣で玄関の鍵とチェーンを掛けた。
「潤慶」
『何、びっくりした?』
「うん。忘れてた」
『去年はメールだけだったからねー』
「そっか。潤慶ももうすぐだよね」
『ん?来てくれるの?』
「どうかな」
『えー』
「ありがとう」
『ん。いいよー』
「ちょっと、嬉しい」
『あれ。ヨンサが素直だー。かわいいっ』
「うるさい」
『あははっ。じゃ、おやすみー。呑みすぎないでね!』
「結人に言っとくよ。じゃあね」
沈黙した受話器の向こうで従兄がまだ笑っていた気がする。
英士は脱ぎ捨てられたスニーカーを揃えて、すでに騒ぎ始めている親友たちにお礼を言うべくリビングに足を向けた。
20080125