3000hit御礼を込めて皆様へ。
手を繋いでいても指先を暖めることにはならない。
骸の指先は冷たいから繋げば熱を奪われるのは常だった。
それでも離す気になれないのは触れれば熱を上げる自身を自覚しているからなのか、ただ単にするするとした感触が気持ちいいと感じるからなのか、綱吉は木枯らし吹きすさぶ道を二人歩きながらそんなことをぼんやり考えている。
「何か暖かいものでも買って帰ります?ね、綱吉」
呼びかける声は動物の毛を素材にしているらしいマフラーに遮られくぐもって聞こえた。
寒い耐えられないと震えていた時期を過ぎて芯まで冷えたような心地に浸っていた綱吉は、今下手に暖めたりしたら指先がじんじん痛むだろうなと頭の端で思いながらそれでも誘惑に負けて僅かに頷く。
「肉まん、かホットココア」
「なら両方にしましょ」
「食べ合わせ悪いだろ」
睨むような視線を投げた綱吉に対して何が可笑しいのか骸はマフラーに埋もれたままくふふと笑う。
「じゃあ、肉まんを買って。帰ったらココア作りましょう」
一緒にお風呂に入るのもいいですけど。
軽口なのか本気なのか分からないからとりあえず肩で相手を軽く小突くにとどめる。
こんな真似ができるのも大通りから脇道に入り、住宅地に向かう短い間だけだ。
きっと肉まんを買うコンビニが見えたらこの手を離さなくてはならない、暗黙の了解のようなもう短くはない付き合いでできあがったルールのような。
ちょっと前までは手を繋ぐ、とかとにかく屋外での接触行為は厳禁だった。
綱吉が拒絶したこともあるし、あとこの六道骸という男はとかく不安定で度々抑えがきかなくなるというか、突飛な行動をしがちであったのでその警戒も含まれてのことである。
それがどうして解除になったのかいえば双方の衝突と妥協の産物としかいいようがない。
どうして恋人に触れてはいけないのですかひどいじゃないですか抱きしめるのもキスするのも駄目ならせめて手ぐらい繋いだって、そんなこと言うけど俺男でお前も男だしここ道端だし幼稚園生でもないんだから仲良くおてて繋いで歩いてたら変だろちょっとは常識考えろ、僕は常識も世界もぶっ壊す今はそんな話してるんじゃないってばていうか世界ぶっ壊すのはやめて頼むから。
冷めているのか冬眠しかけているのか意思とはあまり関係なく動く脳みそが早送りで出来事をさらう。
思えば焦っていたのか。
以前にさらりと言われた言葉がやけに耳について離れない、僕は君を引き止めたい気を引きたい。
俺なんかの気ぃ引いてどうすんの、とそのときはそれ以外の感想は持たなかったし今も結構な割合でそう思っている。
けれど人のいない道とか、逆に大勢の人がいて身動き取れないときにそっと手を握ると安心するみたいに息をついて、それから緩むのを我慢するみたいに口元をぶるぶる震わせるものだから、忘れられなくて少しずつ許すようになった。
そうして触れ合う機会が増えると相手がどんな手をしていてどういう握り方を好むのか覚えてきてしまって、いつしか離しがたくなってしまった自分に気付く。
綱吉は自分が他人と接触を好む性質であるという自覚はなかったけれど、そういえば頻繁に接触するような関係の人が周りにいなかったから思い込んでいただけなのかもしれない。
それとも、これはあまり目を向けたくないことではあるが、相手が骸だからなのかとか。
認めるのはくすぐったかったし羞恥をかきたてられることではあったが。
ちなみにいうとこうして手を繋ぐことも未だに恥ずかしくないわけではない。
コンビニの照明が夕暮れ時に眩しい。
お互いに視線を合わせず親指人差し指と数えながら力を抜いた。
「何か買いますか?」
「いいよ。骸は?」
「僕はですね、あ、ありました」
ほかほか、あったか、とか印字されたオレンジの四角いビニール。
カイロだった。
「え、もう家近いから大丈夫じゃない?」
このコンビニから二人の目的地、綱吉の家までは十分もかからない。
確かに寒いかもしれないけれど耐えられないこともないだろう。
「いいんです。ちょっと、いるんです」
なぜだか含み笑いをして綱吉をレジへ促し、何がいいですかねえなんて肉まんやらあんまんやらが入っているケースを覗く。
「いろいろありますよ」
あんまん、肉まんはもちろんピザまんやら豚の角煮まん、チーズなんとかまんとかまで今はたくさん種類があるらしい。
カレーまんがないな、とその気もないのに考えた。
「いいや肉まんで」
「僕はあんまんにします」
「ほんと、甘いの好きだよな」
チョコは買わなくていいのと訊いたら誘惑しないでくださいよと悩ましげに眉をひそめた。
いいえ、今日は買いません。
固く決意したらしかった。
何かあったのだろうか。
会計を済ませて外に出ると、骸はあんまんが包まれた袋を開ける前にカイロを開封して軽く振るとそそくさとコートポケットに入れる。
「え、なんなの、結局」
「まあまあ」
にこにこしながらあんまんにかぶりつく。
甘いものを食べるときは相変わらず幸せそうだ。
あまり何かを食べる、という行為に結びつかないように思われた骸だったが何でも美味しそうに口に運ぶ。
綱吉はそれを横目で見ると、なんでちょっとえろっちいんだお前はという脳内の呟きを、予想通りじんじんする指先を気にして熱い肉まんをかじることで誤魔化した。
「おいしい」
「あつくて、たいして味わかんないな」
「一緒に食べてるんだからそう言ってくださいよ」
「はいはい」
冬の短い日がみるみる落ちる間に綱吉も骸もそれぞれの間食を腹におさめる。
さっさと食べてしまわなければ外気に水蒸気ごと熱を持っていかれると思ったからかもしれない。
「やっぱ、さむい」
指先を暖めていた熱源がなくなると当然のように身体が寒いと訴える。
我慢してそのまま帰っていた方がよかったと思わせるほどに。
なくなったものを惜しむように指先を見つめていると片手を取られた。
「ほら、買っておいてよかったでしょう?」
握られた手が導かれたのは先ほど骸がカイロを入れたポケットの中だ。
まだ暖まりきってはいないけれど外に出しているよりずっとあたたかい。
「でも、ちょっと」
しかし綱吉は居心地が悪い、というように身じろぐ。
ここは住宅街で少なからず会社帰りのサラリーマンや買い物帰りの主婦、部活帰りの学生なんかとすれ違う。
目立つことも注目されることも厭う綱吉にとってはやはり恥ずかしい。
「大丈夫ですって。暗いから分かりませんよ」
きみ、小さいから女の子みたいだし。
耳元で付け加えられた言葉に手の甲をちょっとつねってやった。
それでも拒否ではないと骸には分かったらしい。
「スカートでも履いてくりゃよかったかよ」
「似合いますよ。きっと」
軽口の押収に薄い暗闇でも分かるくらい嬉しげに目を細めて口角を上げる。
改めて指を絡ませられた。
家に帰るまで、あと少しだから。
そうして綱吉は片方だけ暖まる指先に甘えるように力を込めた。
前にちょっと似たのを小ネタで書いたような…手繋ぎすきですみません。。
むくつなだと、なんでもないほのぼのした幸せっていうのが実現するの難しいんじゃないか、そういう二人を書きたいと常々思っています。
これから書ける時間は少なくなっていくと思われますが、できるだけこれからも書くぞという気概を持って。
そして何より来て下さっている方々への感謝を込めて。
3000hitありがとうございます。弱小サイトですがどうぞこれからもよろしくお願いいたします。
和希 拝
20090114